オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アンカット・ダイヤモンド』

Uncut Gems, 135min

監督:サフディ兄弟 出演:アダム・サンドラー、ラキース・スタンフィールド

★★★★

概要

ギャンブル中毒で借金漬けなユダヤ人宝石商。

短評

ダイヤモンドではなくオパールが出てくる話。本作を一言で表すならば、間違いなく「カオス」である。サフディ兄弟がこれまでに撮ってきた底辺映画と同じく“ダメな人がダメなことをしてダメになっていく”というバッドエンド一直線な坂道コロコロ系統の話ではあるのだが、本作の場合は主人公が決して底辺ではない分だけ“ダメな人”の度合いが尋常ではない。究極の自転車操業とでも言うべき生き様は思わず笑ってしまうほどだった。

あらすじ

2010年、エチオピアのウェロ鉱山での作業事故による騒ぎの最中、とある作業員たちが大きなオパールを盗掘する。時は流れて2012年のニューヨーク。件のオパールを手にしたのが、ユダヤ人宝石商のハワード(アダム・サンドラー)。借金で首が回らなくなっていた彼は、オパールを競売にかけて精算しようとするのだが……。

感想

まるでボラットのような訛りの英語を話し、金の装飾を施したメガネを掛ける最高に胡散臭いハワード。彼のダメっぷりがとにかく壮絶である。彼は届いたオパールをバスケ選手のKGことケヴィン・ガーネット(本人)に見せびらかし、「貸して」と言われて返ってこなくなってしまう。本作が“普通の話”であれば、「オパールを取り戻さないと借金取りに命を狙われてヤバい!」という展開が待っているのだろうが、ハワードは三十郎氏の知る普通の範疇には決して収まらない人物である。したがって、序盤は「こいつは一体何がしたいんだ……」と大いに戸惑うことになったが、やがてそのカオス感が癖になってくる。

借金取りに狙われているのに、手にした金を即座に賭けに回し、さらにはKGから担保に取ったチャンピオンリングも質入れして賭けに回す。普通に借金を返して、普通にオパールを売れば当座を凌げそうな感じなのに、そんなことは全くお構いなし。金が入れば即ギャンブルという異常者がハワードなのである。(三十郎氏を含む)大抵の人にとって彼の行動は意味不明の一言だろうが、欲に取り憑かれた人間の愚かさをこれ以上なく体現していたように思う。注目すべきは、まず問題が存在してそれを何とかしようとする“解決”を目指す堅実な思考経路ではなく、「これがああなって、あれがこうなれば、全てがうまくいく」というその場しのぎですらない先延ばしの連続性である。

このハワードの人格を象徴するかのようなクライマックス。100万ドルを見込んでいたオパールの価値が20万弱でしかなく、彼はKGに17万5000ドルで売却することに。その場には借金取りもいて、この金は彼らに渡るはずだったのだが、なんとハワードは愛人兼店員のジュリア(ジュリア・フォックス)を利用して全額ギャンブルに回してしまう。そして、その賭けの内容というのが“三択パーレイ”なのである。三十郎氏は『世界に一つのプレイブック』で知ったのだが、パーレイというのは、要するに“条件をいくつか設定して全部当てれば勝ち”というもの。つまり、「これがああなって、あれがこうなれば、全てがうまくいく」というハワードの思考法そのものなのである。

こんなハワードには破滅的な結末しか待っていないと確信しながらも、やはり賭けの行く末を見守る時にはハラハラさせられた。こちらはハッピーエンドではなくバッドエンドを待っているような状態で、しかもハワードは相当に感情移入な困難な男であるのに、クライマックスに来て初めて彼の緊張を共有させるという演出は天才的だと思った。

しかも、彼は賭けに勝って1億ドル以上の金を手にするのである。ただし、まさかのハッピーエンドとは問屋が卸さず、相手の行動が明らかに非合理的でありながらも必然としか思えないバッドエンドが到来し、「まあ、そうなるわな」という少し突き放した笑いが漏れた。1億ドルと言えば、三十郎氏にとってはどんなに頑張っても死ぬまでに使い切る方法を思いつかないような大金だが、きっとハワードならばどうにかこうにか使い切って破滅していたことだろう。遅かれ早かれ、なのである。

本作はその年のオスカーレースのダークホースとして注目されていたかと思うが、結局はノミネートすらされなかったのか。改めてノミニーの一覧を眺めてみると、その豊作ぶりに驚かされる。本作もそうなのだが、芸術とエンタメを両立している話題作の多さである。またこれくらい盛り上がる賞レースを見てみたいものだが、果たして。