オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アオラレ』

Unhinged, 90min

監督:デリック・ボルテ 出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス

★★★

概要

怖いおっさんに煽り運転される話。

短評

邦題が期待させる程には煽り運転にフォーカスした作品ではなかった。考えてみれば、ドライブレコーダーの登場によって問題が顕在化したのが近年の話というだけで、煽り運転自体は昔からあっただろうし、映画の題材としてもスピルバーグが『激突!』でとっくの昔に使用済みである。したがって、もはや煽り運転とは無関係におっさんがヤバいというだけの話ではあるものの、ラッセル・クロウのキャラだけで保っていた印象である。脚本にも粗が多く、ラッセル・クロウを怖がるよりも彼のヤバさを笑う方がより楽しめる一作かと思う。

あらすじ

息子カイルを学校に送っているレイチェル(カレン・ピストリアス)。彼女は寝坊して先を急いでいたが、渋滞にハマり、顧客から契約を打ち切られと、問題が続々と降り掛かってくる。その上、前に止まった車が青信号になっても動き出さず、イライラが頂点に達した彼女はクラクションを盛大に鳴らして走り去る。しかし、車の主(ラッセル・クロウ)は決して怒らせてはいけないヤバい人だった。

感想

ラッセル・クロウ演じるトム・クーパーの「お互いに謝って終わりにしようや」をレイチェルが「私が謝る必要なんてないんですけど!」と拒否して煽り運転が始まるが、それが延々と続くわけではない。ここでも何とか逃げ切るし、ガソリンスタンドで運命の再会を果たした後も逃げ切る。言うほど“煽り”要素はないのである。それではどうやって話を続けるかと言えば、レイチェルがガソリンスタンドで買い物中に車に放置したスマホを奪われ、代わりにトムが置いた携帯で通話しつつ「お前が失礼だったせいで家族が死んじゃうね」をやるのである。

そもそもガソリンスタンドでの再会は偶然だったのかという疑問があるし、今時の人間がスマホを持ち歩かないのも不自然だし(スマホ自体にパスワードを設定しないのは単なる不用心にしても銀行アプリには個別のパスワードがあるのでは?)、なによりテレビで報道されるまでにトムが暴れているのに警察が動かないのもおかしい。OPクレジットで「治安悪化で警察が不足しています」とは言っていたが、流石に逃亡中の殺人犯は最優先事項だろう。トムから「誰に死んでもらう?」と尋ねられたレイチェルが「私をクビにしやがったデボラ」と答えて彼女が保護されていたのだから、カイルのいる学校、弟フレディのいる自宅、そして母のいる老人ホームを警備してもらうくらいは簡単にできただろうに。それだけで万事解決である。

遅刻魔で片付けも苦手なレイチェルにはきっと何かしらの発達障害があるのだろう。彼女が正常な判断ができないためにトムは好き放題に暴れ回る。弁護士アンディを、フレディの恋人メアリー(ジュリエンヌ・ジョイナー)を殺し、それでも警察はやって来ない。最後に「フレディは生きてました」でハッピーエンドを装ってはいたものの、彼は姉のことを恨むだろう。それでも姉の家に寄生する自称起業家のニートなので強く言えないという後日談があればとても面白い。

OPクレジットでは「ストレス社会が云々」と言っていたが(社会的背景の説明をOPクレジットで全部済ませる辺りがいかにもB級映画)、「暴力だけが俺に残された唯一の手段なんだ!」というトムの迫真のセリフには『ジョーカー』っぽさがあった。映画の冒頭でトムが元妻の家を焼き討ちにする場面が描かれるのだが、ここまでではなくとも失うもののない“無敵の人”にどこで遭遇するものか分かったものではない。レイチェルのように「正義は我にあり!」と強気に振る舞うのではなく、事なかれ主義を徹底してトラブルを避けたいものである。まあ、素直に謝っても相手は暴れたくて仕方がないから難癖をつけられるんですけどね。

どこからどう見ても激ヤバおっさんなトムだが、最後はレイチェルとの一騎打ちに敗れてしまう。彼がレイチェルを二度ノックアウトしてカイルをしばきにいく場面があるものの、二度ともレイチェルは復活している。流石にレイチェルのダメージ耐性が高すぎやしないか。そこまで強いのなら最初から車を降りて戦っても勝てたのではないかという気さえした。「車から出なければ大丈夫」と強気になってしまう前提が崩壊している。

映画はレイチェルがクラクションを鳴らすのを思い留まり、カイルが「それでいいんだ」と告げる場面で終わるのだが、あの状況であれば危険を伝えるために鳴らした方がいい気がしなくもない。“事後”になってしまうので無意味かもしれないが。

それにしてもラッセル・クロウはブクブクに太ってしまって、すっかり悪役が板についたものである。精悍なマキシマスを返して。痩せてもジョナ・ヒルみたいに皮が余りそうだけれど。

ちなみに、煽り運転は英語で「road raging」と言うらしい。