オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クライシス』

Crisis, 119min

監督:ニコラス・ジャレッキー 出演:ゲイリー・オールドマンアーミー・ハマー

★★★

概要

オピオイド問題三景。

短評

アメリカで深刻な問題となっている鎮痛薬オピオイドを扱ったスリラー映画。実話レベル「Inspired」となっていたが、特に具体的な事実に基づいてるわけではないのだろう。それなりに面白かったものの、問題を“三つの視点から描き出す”という形式が上手く機能しておらず、脚本の作り込みに甘さが感じられて残念だった。三つの話の軸の内、二つだけが中途半端に絡み、一つは全く絡まない。この手の群像劇は複数の線をどうやって繋げるのかが大きな見所であるため、それを放棄するくらいならば欲張らず一つの軸に絞った話にすべきだったかと思う。

あらすじ

DEAの捜査官ジェイク(アーミー・ハマー)は、カナダ国境の密輸を手掛けるアルメニア系ギャングに潜入捜査し、組織の一網打尽を狙っている。依存症患者の会に通うシングルマザーのクレア(エヴァンジェリン・リリー)は、息子のデイヴィッドをオーバードーズで亡くすも、信じることができず独自に真相を追う。そして、大学教授のタイロン(ゲイリー・オールドマン)は、依存性の低いオピオイド系鎮痛剤の新薬“クララロン”の試験結果に問題があることに気付いてしまい、製薬会社との戦いに挑むこととなる。

感想

クレアが独自に調査をすると、どうやら息子は本人も知らぬ内に運び屋にされてしまい、証拠隠滅のために組織に消されたらしいということが明らかとなる。その組織というのがジェイクの追っているギャングという展開で、この二つの話の繋げ方は面白い。それぞれの物語にも魅力があったし、決着のつけ方も納得がいくものだった。

問題はタイロン編。同じくオピオイド系の薬物問題を扱ってはいるものの、大学にいる彼の話がどうやって密売組織へと結びつくのか。これは全く予測できない分だけ大きな楽しみでもあったわけだが、最後までクレアやジェイクの話と絡み合わないとは。残念至極である。この“関係なさそうなもの”を繋げてこその群像劇だろうに。

映画の最後に「オピオイド中毒でベトナム戦争よりも多くの人が死んでいます」とのテロップが流れるのだが、恐らく本作が最も描きたかったのはタイロン編である。オピオイド系鎮痛剤であるオキシコドンFDAに認可された“処方薬”であり、つまり合法薬物が中毒を引き起こして多くの死者を出していることになる。研究資金を人質に黙殺される大学、ロビイストが手を回したFDA。どうして危険な薬物が合法的に出回り、人が死んでいるのか。その経緯を描いたのがタイロン編ということになる。

したがって、タイロン編にだけ注力すべきだったようにも感じられるが、それでは盛り上がりに欠けると考えたのだろうか。元より娯楽性の低い作品であるため、そこに拘る必要はなかったと思うのだが。ただし、ジェイク編でオキシコドンが密売組織を通じて中毒者へと行き渡る過程が描かれており、問題の全体像を把握するならばタイロン編だけでは不足だったのも事実である。となると、話を盛り上げるためだけに登場するクレア編が蛇足ということになってしまい、やはり色々と中途半端ではあった。

クレアが元中毒者、ジェイクの妹エミー(リリー=ローズ・デップ)がジャンキーという設定にはなっているものの、本作が群像劇であるならば、やはり中毒者の話も必要だったのではないかと思う。これだけ危険性が認知されていながら、どうした入り口があって、どのように依存症に陥っていくのか。三つの話すら繋げられなかったのに、さらにもう一つ加えろというのは無理な要求かもしれないが、ないと物足りなさを感じさせる要素である。リリー=ローズ・デップは広い額が不健康系ハゲのようでハマり役だった。