オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アガサ・クリスティー ねじれた家』

Crooked House, 114min

監督:ジル・パケ=ブレネール 出演:グレン・クローズ、マックス・アイアンズ

★★★

概要

富豪殺人事件。容疑者は遺族全員。

短評

ポアロもマープルも出てこないアガサ・クリスティ原作もの。大金持ちが殺され、遺産を狙う遺族たちが容疑者の、豪邸を舞台とした話──という古式ゆかしい王道ミステリー的な話である。ただし、本作の主人公は他作品の有名キャラクターのような“名探偵”というわけではなく、謎解きよりも富豪一族のドロドロとした人間ドラマの方がメインとなっていた。したがって、最後に「すっきり解決!」とはいかないものの、ミスリードや伏線回収についてはフェアだったかと思う。

あらすじ

ギリシャから渡英して一代で財を成したレオニデス家の当主アリスタイドが死去。その死が他殺ではないかと疑った孫娘ソフィア(ステファニー・マティーニ)は、かつての恋人でもある探偵チャールズに捜査を依頼。ソフィアとの関係から依頼を断ろうとするチャールズだったが、秘書アクロイドに「働け」と一喝されて承諾。容疑者は、アリスタイドの前妻の妹イーディス(グレン・クローズ)、後妻ブレンダ(クリスティーナ・ヘンドリックス)、長男フィリップとその妻マグダ(ジリアン・アンダーソン)、彼ら夫妻の三人の子供たち─ソフィア、ユーリタス、ジョセフィン(オナー・ニーフシー)、そして次男ロジャーとその妻クレメンシー(アマンダ・アビントン)。一族は皆曲者揃い。果たして、犯人は誰なのか。

感想

映画の冒頭に犯人と思しき“爆乳の女”が映る。ここまで目立つ立派な膨らみをお持ちなのがクリスティーナ・ヘンドリックス演じる後妻ブレンダだけなのは明らかなため、観客には犯人が分かった状態で話を進める倒叙ミステリーなのかと思った。ところが、“遺言に署名がないため全ての遺産を手にする後妻”というアレすぎる属性持ちの彼女は早々に「注射したけどインスリン」と認めており、どうやらミスリード第一号らしい。家庭教師と密通していたりと怪しい点の多いブレンダだが(なんと故人公認!)、“探偵”と“刑事”の両方が登場する場合に無能と相場が決まっている後者が彼女を逮捕したことで犯人でないことがないことが確定する。タヴァナー警部(テレンス・スタンプ)は有能そうな顔つきだったが、やはり無能なのである。その顔すらもミスリードだったか。

続いての容疑者。長男フィリップとマグダの夫妻は芸術被れで生活能力がなく、映画制作への出資をアリスタイドに断られたことで動機を有している。次男ロジャーは会社を一つ任されているものの倒産の危機に瀕しており、無能ぶりを叱責されたことが動機となりうる。このように、一応は「全員容疑者」という体裁を取り繕ってはいるものの、彼ら全員に深入りすることはなく、“第二の遺言”によってブレンダに代わる遺産相続者に指名されたソフィアが容疑者リストの上位に急浮上。ところが、かつてソフィアと恋人だったチャールズが彼女を疑おうとせず、非常に焦れったい思いをすることになる。原作では二人は“元”ではない恋人らしいのだが、その方がチャールズの行動はすんなりと受け入れやすかっただろうか。ちなみに、長男と次男も逆らしい。

三十郎氏が「あー、やっぱりブレンダが犯人なのかなぁ」と考えている一方で、一向に真相に迫る気配を見せない迷探偵チャールズ。彼がもたもたしている間に次なる事件が発生してしまうのだが、ここでもソフィアが犯人だと“匂わせる”描写が。その描写がスリルを生み出しつつもミスリードでもあるという点が非常に上手いと思った。「ソフィアに殺されそう」に見える人物こそが真犯人なのである。そもそもが疑われにくい属性持ちの人物である上に、“被害者属性”までに手に入れたとなれば、これは容疑者リストから外れるのも当然である。心配して損したではないか。これもミステリーでは定番のテクニックなのかもしれないが、三十郎氏はきっちり騙された。その意外な真犯人が「犯人は最も意外な人物」だと口にし、探偵チャールズを自らは謎を解けない「ワトソンくん」扱い。ちゃんと伏線はあったのである。

大筋としてはとても面白かったと思うのだが、一族の“曲者揃い”ぶりを描き切れていなかった点は残念だったろうか。CIAの協力者だったアリスタイドの意向を探るため、当時外交官だったチャールズがカイロでソフィアに接触したという過去の描写に比重が置かれていたが、これは原作通り“現”恋人設定にすれば切り捨てられた部分だと思う。タイトル『ねじれた家』の意味する通り、その“捻れ”が犯人を生み出したのだから、一族の皆をより平等に疑えるようにイヤらしく描いてもよかったのではないかと思う。