オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『SPY スパイ』

Spy, 119min

監督:ポール・フェイグ 出演:メリッサ・マッカーシージェイソン・ステイサム

★★★★

概要

おばちゃんスパイが頑張る話。

短評

メリッサ・マッカーシー主演のスパイ・アクションコメディ。ジェイソン・ステイサムがCIAのエージェント役で出演しているのだが、なんと彼は活躍しない。マッカーシーがワチャワチャしながらスパイをやる画だけでも楽しかっただろうが、このステイサムの使い方はもはや反則。思い出しただけで笑えてくるレベルである。コメディなので彼の顔芸や罵詈雑言の嵐が際立ち、やってくれそうな場面でもことごとく引き立て役に徹する意外性。普段の無双イメージがあるからこそギャップが可笑しいのだろうが、天才的な起用法だと思った。本人もよく引き受けたものだと思う。

あらすじ

私生活では冴えない40女ながらも、CIAのエージェントたちを導くオペレーターとしては有能なスーザン(メリッサ・マッカーシー)。しかし、彼女が後方支援するファイン (ジュード・ロウ) が核弾頭を保有するとされるレイナ(ローズ・バーン)宅へ侵入した際に命を落とし、敵に身元のバレていないスパイとして自身が現場に出ることを志願する。キャロルという偽プロフィールを与えられ、レイナの取引相手であるデ・ルーカ監視のためにパリへと飛んだスーザンだったが、そこに彼女には任せられないとCIAを辞めたフォード(ジェイソン・ステイサム)が現れるのだった。

感想

四人の子持ちのシングルマザー・キャロル、化粧品セールスのバツイチ猫オバさんペニー──お似合いの偽プロフィールを使い分け、現場で躍動するスーザン。初めは監視のみの任務だったはずが、最終的には凄腕エージェントとして活躍するという展開である。これ自体ははお決まりのパターンなのだが、素人が現場で“思いがけず”活躍する際にありがちな「偶然」の要素が少な目で、スーザンが本当に有能というのは珍しかったように思う。彼女は元々暴走的格闘の才覚の持ち主だったが、愛しのファインを支援するために内勤していたのである。

治安の悪そうなホテルの周囲の様子にビビり、初めての殺しを体験した時には死体に豪快にゲロを吐きかける(スローモーション)という頼りなさだったが、独断でレイナの護衛を演じだした辺りから本気モードへと変貌。それまでの弱気が嘘のように語気を荒げて汚い言葉を使う演技はマッカーシーの本領発揮である。また、アクションも「カット割り」と「スタントダブル」と「再生速度」の三つを見事に組み合わせて弄くり回すことで意外にも“見られるレベル”には仕上がっており、“実は凄い”なキャラクターにそこまでの無理がないのである。

ただし、“オバちゃんスパイ”であることを笑いを誘うことは忘れておらず、スクーターに乗って追跡を開始した瞬間に横転したり、“身軽な女”(ナルギス・ファクリ)と同じことをしようとしてできなかったりと、笑える失敗も多い。イタリアのナンパ男にスルーされるというスーザンの冴えなさを利用した笑いから、巨漢女が動いたり、スケベ協力者アルドに口説かれたりする笑いまで幅広く、アクションコメディとして抜群のバランス感だった。

スーザンへの罵倒──「事務のおばさんを現場に出す気か」「サンタの女房」「フルート奏者」──と、自身の武勇伝──「オバマの替え玉をしたこともある(「ブラックフェイス」とツッコまれる)」「179の毒への耐性がある」──を繰り返し、「俺にしか出来ない」と満を持してパリに現れたフォードだったが、彼は本当にポンコツ、いいところなしである。敵に荷物をすり替えられて危うく爆弾テロしかけたり、簡単に正体がバレて敵に取り押さえられたりと、いつもの頼れるステイサムの姿はどこにもない。ただ出しゃばっては失敗を繰り返すばかりであり、意外に有能なスーザンの足手まといでしかない。

「それでも一度くらいは見せ場が……」とファンならば思ってしまうところだが、格闘スキルを披露するのもスーザンの助けありきだったりして、最後までひたすらにポンコツだった。美人スパイのカレン(モリーナ・バッカリン)を裏切り者に設定し、内勤の同僚ナンシーに活躍させる辺りからも明らかだが、“冴えないオバちゃん”以外は徹底して引き立て役なのである。これが本当にハマり役だったので、この路線を専門にすれば肉体が衰えても食っていけそうだと思ったが、今のところその気はないのか。あまりにネタキャラを演じすぎると本人にその属性がついてしまうのだろうが、もっと見たい。