オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『三人の夫』

三夫(Three Husbands), 104min

監督:フルーツ・チャン 出演:クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン

★★★

概要

海の娼婦と三人の夫たち。

短評

性欲過多のヒロインがひたすらセックスしまくる香港映画。色白むっちりボディの地味顔美人が動物の如く喘ぎまくるエロさ。彼女の性欲を満たすために奔走する男たちの滑稽さ。この二つの要素が合体した結果、最終的にはなぜか神話のような雰囲気を持つ一作へと変貌を遂げていた。何か元ネタとなるような伝説があったり、それとも何かしらの隠喩が込められているのかは読み取れなかったが、とにかく強烈な印象を残すシーンの連続だった。

あらすじ

誰にでも見境なく求婚するブ男のメガネは、船の上で客を取る“海の娼婦”ムイ(クロエ・マーヤン)のガチ恋勢だった。彼はなんとか7万ドルをかき集め、ポン引きの漁師からムイを“買い取って”結婚することに成功する。祖母とクラス狭いアパートの一室でムイと交わるメガネだったが、この時、まだ彼は知らなかった──ムイが決して尽きることのない無限の性欲の持ち主であることを。

感想

昼夜を問わず求め続けるムイに精も根も尽きるまで吸いつくされ、仕事をクビになったメガネ。彼が助けを求めてポン引きを訪ねると、「親父さん」だと思っていた老漁師がムイの前夫であり、もう一人の老人がムイの父親かつ彼女の息子の父親であることが発覚する。「ムイを独占してヤリまくれる」と喜んで結婚したメガネだったが、他の“夫たち”と「どうぞどうぞ」と譲り合うようになり、種々の道具を用いて彼女を慰め、最終的には自身も立派なポン引きになるという話である。男性観客も序盤こそムイの裸に「うひょひょ」となるだろうが、最終的には絞り取られたわけでもいないのに“げっそり”するだろうから、メガネの心変わりには割と納得できるだろう。

さて、非常に奇妙な状況である。ムイは明らかに知的障害者であり、それ故に何かを考えることもなく純粋に快楽に身を任せているように見える。セックスして、魚を食べられれば、それで満足、と。構図としては三人の夫が彼女を食い物にしているようでもあるが、一方で、それ以外に彼女を満たしてあげる方法がない。賭博中毒や無職のヒモ軍団はダメ男に相違ないが、ロデオボーイスマホのバイブ、そして二重コンドームの“ウナギ”とあの手この手をムイのために試してはいる。メガネは底辺土方とは言え、ムイとの無限セックスで憔悴しなければなんとか生活するくらいはできただろう。一度は“陸”に上がったムイが再び“海”へと戻ってきたことからも分かる通り、彼女が“商売”することが当然の帰結のように思えてくるのである。夫たちはムイを搾取しているようでもあり、一方で彼女に振り回されているようでもあり、謎の共生関係が成立していた。

ムイの股間を診察した医師によると、「アワビのように外を向いた陰唇が異常性欲を誘発する」「100万人に1人の名器」とのこと。その野生動物的な喘ぎ声も相まって(メガネ曰く「イルカの鳴き声みたい」)、どこか人間でないような神秘性を帯びてくるムイ。何か神話か怪異譚的な元ネタがあったりするかと思ったが、メガネが疑った人魚伝説は劇中で一応否定されていた。「人魚なら海に逃げる」と。中国語版Wikipediaによると、ムイが香港、父親が清王朝、漁師が大英帝国、そしてメガネが中国の比喩ということである。映画の最後に「港珠澳大橋」が取り上げられるので、“変わりゆく香港”とテーマがありそうなことくらいは察せられるが、その辺りの事情を汲み取れずとも楽しめる一作かとは思う。香港から本土に出稼ぎに行っていたKTV嬢(Larine Tang)もその変化の一端か。

“網の上で踊るアワビ”というダイレクトな描写からスタートする時点で笑ってしまったが、それ以外にもエロが笑いに転化されているシーンが多い。メガネの住むアパートはとても狭く、「ギンナンを食べ過ぎると夢精する。学校で習ったでしょ」と主張する祖母がヘッドホン着用の生活を余儀なくされている。自身の賭博中毒を恨めしく思った漁師はムイに腕を切り落としてもらい、義手でフィストファックを試みる。他には、三人の夫がムイの“観音様”を拝むシーンが笑えた。“パパイヤニー”や街中を走るトラックの荷台でのセックスはエロいのか可笑しいのかもはや分からなかった。

三人の夫(字幕版)

三人の夫(字幕版)

  • クロエ・マーヤン
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