オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『プリベンジ』

Prevenge, 87min

監督:アリス・ロウ 出演:アリス・ロウ、ケイヴァン・ノヴァク

★★

概要

妊婦の復讐。

短評

お腹の中の赤ん坊に「やれ」と言われた妊婦が次々と人を殺していくイギリス製ホラーコメディ。設定は奇抜でありながらも隠喩的な意味で説得力もあるという大変に魅力的なものだったのだが、「Revenge」なのか「Avenge」なのかがよく分からないことになっていた。どちらかに焦点を絞ってもよかったのではないかと思う。表現したいのは後者の方なのだろうが、その正当化の材料として前者を用いており、“八つ当たり”の感が強くなってしまっていた。

あらすじ

出産を目前に控えながら夫をクライミング中の事故で亡くしてしまったルース。悲しみに暮れるルースだったが、彼女には“声”が聞こえていた。お腹の中の赤ん坊が彼女に語り掛けるのである──「やれ」と。ルースは声の導きに従い、夫の死に関与した者たちを次々と殺害していく。

感想

最初の被害者はペット店主のザベック。この時点では“夫の事故死”という物語の根幹を成す要素が明らかにされていない。したがって、彼が殺される理由として思いつくのは「子供相手に危険なクモを売る」ということだけなのだが、殺すほどの悪事のようには思えない。夫関係だと明らかになった後も、子供部屋おじさんDJダンにせよ、面接官エラにせよ、スポーツ好き女レンにせよ、そしてルース自身も「あの人は殺す必要なかったんじゃ……」と語るジョシュにせよ、誰も殺される程の悪人のようには思えない。

「落ち着くにはまだ早い」と言ってよいようなハゲ方ではないダン。彼は母と住む家にルースをお持ち帰りし、事に至る直前に「親に対する口の聞き方がなってない」と股間をちょん切られる。面接官エラは「すぐ産休に入っちゃうから……」と不採用を告げて首を切られ、ジョシュは同居人ザック殺害の目撃者となったことで“ついでに”殺される。レンは子供のための寄付を断った結果、ナイフとボクシングの戦いに破れる(腹を殴って心配したら逆に刺される展開が笑える)。

ジョシュ以外は「お前らみたいな奴のせいで妊婦や母親が苦労するんだ!」ということなのだろうが、ダンを誘ったのはルースの方だし、出産直前の妊婦を採用しないのは理解できるし、寄付の強要なんてヤクザの仕事である。妊婦や母親が多くの難題を抱えていることは理解できるのだが、ルースの方が“当たり屋”に思えてならず、あまりスカッとする殺戮集には仕上がっていなかった。周囲の人々の意識を変えたいのかもしれないが、本質的にはルースが「社会福祉=養子」と言って嫌った政府の仕事だろう。

以上の被害者たちは事故との関わりがよく分からないのだが、トーマスというクライミングスクールの講師だけはロープを切って夫を殺した当事者である(脳が“グチャッ”となっているのがリアル。帝王切開の描写もリアル)。したがって、ルースの本来の復讐対象は彼だけなのだが、最終的に“出産後”に彼を殺したいという欲望を発露することで、殺しは赤ん坊の指示ではなく自身の意志であったというオチになる。これは当然といえば当然なのかもしれないが、“お腹の中の子の操られる”という設定については、自分の体が自分だけのものではなくなり、全てにおいて胎児優先を強いられるという妊婦の置かれた状況を上手く表していたように思う。

プリベンジ(字幕版)