オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・マミー』

Vuelven(Tigers Are Not Afraid), 83min

監督:イッサ・ロペス 出演:パオラ・ララ、フアン・ラモン・ロペス

★★★

概要

メキシコ麻薬戦争と子供たち。

短評

てっきり『MAMA』の亜種的なB級ホラー映画なのかと思ったら、とんでもなく社会派なダークファンタジーだった。こういうのやめてくれませんかね、邦題をつけた配給会社も、B級映画の群れに紛れ込ませるプライムビデオも。「いや、こんなシリアスな映画を求めていたわけでは……」と困ってしまうというか、“覚悟”をした上で観なければならない類の作品である。というわけで、その“重さ”に面食らってしまったところはあるものの、映画の出来自体はとても良かった。ホラー的に怖いというよりも、その背景となっている現実が怖すぎる。

あらすじ

2006年に勃発したメキシコ麻薬戦争。市民16万人が命を落とし、5万3000人が行方不明となっていた。少女エストレイヤ(パオラ・ララ)もまたカルテルによって母を攫われてしまった内の一人だった。彼女は同じく親を失った子供たちのリーダーであるシャイネに助けを求めるのだが、彼が仲間入りの条件として提示したのは、子供たちを攫いにスラムにやって来るカコという男の殺害だった。

感想

パッケージにミイラみたいな“ママ”が写っていることからも分かる通り、一応はホラー的な演出もありはするものの、そんなことに怖がっている余裕がなくなってしまうくらいには麻薬戦争の現実の怖い。親を亡くした子供たちが身を寄せ合い、自分たちの力で逞しく生きているというのは頼もしくもあるものの、それが普通になってしまっている状況が怖すぎる。「モロはイヤなものを見て口がきけなくなった」ってなんだよ。“イヤなもの”で括れるレベルじゃないだろう。平和な日本に生きる三十郎氏には想像も及ばない過酷な世界である。

シャイネの指示を受けてカコを殺すために家宅侵入したエストレイヤ。しかし、そこには既に死んだカコの死体が転がっており、彼女は自分の手柄ということにして仲間入りを果たす。それはよかったものの、カコ殺しの犯人としてグループ共々追われる身となってしまう。本当にロクでもない世界である。

そんな状況下で、母と思しき亡霊が「エストレイヤ~、あいつを私の元に連れてきて~」と囁くものだから、見た目は怖いけど幽霊母ちゃんが我が子を守ってくれるのかとでも思ったら、「私の元(=あの世)」という話であった。亡霊たちはある意味ではエストレイヤを“導く”存在でもあるが、彼らが恨みを晴らし、また、エストレイヤが現実と対峙するには、“自らの力で立ち向かう”ことこそが重要なのである。彼らが何も恐れない存在として憧れていた“トラ”も、自らの心の内にこそ存在していたという結末。

それは確かにそうかもしれないのだが……、こんな“成長”はしてほしくないというのが正直な気持ちである。しかし、それを必要とする現実がメキシコにはあるのだろう。メキシコ怖い。これが他人事でいられることを喜ぶのは無責任かもしれないが、かと言ってできることはない。

シャイネは酔っ払って立ちションしていたカコから拳銃とスマホを盗んだのだが、実はこのスマホにはフアスカスというギャングと強い繋がりを有する議員候補チノによる殺害動画が入っていた。それは恐らくカコにとっての“保険”だったのだろうが、逆にチノに殺されてしまうという間抜け展開。日本でも政治とヤクザの繋がりが指摘されることはあるが、メキシコではギャングがそのまま政治家である。凄いな、イヤだけど。子供たちはスマホの動画を警察に見せて助けを求めるのだが、警察が「知らない、見てない」と逃げていく恐怖政治ぶりである。密告しないだけマシかと思ったのだが、チノが動画の存在を知った手下を自ら殺害した事実を併せて考えれば、そういうことだったのか。凄いな、イヤだけど。

ザ・マミー(字幕版)