オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『モンスターズ 悪魔の復讐』

Lizzie, 105min

監督:クレイグ・ウィリアム・マクニール 出演:クロエ・セヴィニークリステン・スチュワート

★★★

概要

ジー・ボーデン事件。

短評

レイプ・アンド・リベンジ以外のジャンルになる展開が想像できないようなB級スリラー感全開の邦題とパッケージだが(原題そのまま『リジー』でもよく分からない感じになるだろうが)、2018年のクロエ・セヴィニーはともかくクリステン・スチュワートがそんな安っぽい映画に出るはずもない。「リジー・ボーデン事件」という有名な未解決事件を扱ったシリアスな雰囲気の伝記映画である。もっとも、真相が分からないから“未解決事件”なのであって、それを“伝記映画”にカテゴライズしてよいものなのかは分からないが、“辻褄を合わせる”ための演出がとても面白かったのでよしとしよう。

あらすじ

1892年。マサチューセッツ州の名家であるボーデン家は二つの問題に頭を悩ませていた。一つ目は、借金のかたに土地を取り上げて恨みを買ったのか、脅迫状が届いていたこと。二つ目は、一家の末娘リジークロエ・セヴィニー)がてんかん持ちで、父アンドリューとも度々意見対立を起こしていたこと。そんなボーデン家に新しく働きにやって来たメイドのブリジット(クリステン・スチュワート)は、読み書きを教えてくれるリジーと惹かれ合うようになるのだが、ある日、事件が起きる。

感想

本作のモデルとなった「リジー・ボーデン事件」とは、リジーの父アンドリューと継母アビーが斧で殺害され、動機や状況証拠の面からリジーを被告人とする裁判が行われたものの、陪審員が「名家の娘さんがこんな凶悪事件を起こすわけないでしょ」と無罪評決を下したというのがおおよそのところである。本作は「リジーが犯人である」と仮定し、犯行に至るまでの過程や犯行の詳細、そしてブリジットとの関係を描いている。

演じるクロエ・セヴィニーが40才を超えているため、“一家の末娘”という感じはあまりしないのだが、現実のリジーも当時32才だったようである。てんかん持ちの影響もあったのか、当時としては“生き遅れ”の感が非常に強いリジー。彼女は父に抑圧された“被害者”であり、また、ブリジットも「いい働きぶりだね、お給料アップしちゃおう」と言って夜這いにやって来るアンドリューの被害者である(ブリジットの母が亡くなったと知ると「話は聞いたよ、大変だったね」と慰めセックスを強要する)。抑圧された二人の女性の間に絆が芽生え、いつしか愛に変わり、そして……というのが基本的な流れとなる。

となると、未解決事件であるボーデン夫妻殺害は“スカッとする復讐”になりそうなものだが、実はリジーとブリジットには意識の乖離があったというのが本作の面白さ。リジー的には卑劣な独裁者アンドリューに立ち向かうという点でブリジットと目的を共有していたつもりだったが、実際には“遺産を我がものにする”という動機が大きく働いており、犯行の手順もその目的に沿ったものとなっている。したがって、二人は共犯者として夫妻を一人ずつ殺し、互いにアリバイを作るはずだったものの、そこまでの強い動機を持たないブリジットが本番になってチキるのである。状況的に『お嬢さん』のような濃密な関係が犯行へと繋がるかと思ったが、実際には“名家”と“庶民”の間の溝の方が大きかったのだ。

上述のブリジットの裏切りが明らかとなるまでは、「またクソ男が成敗されるだけの話か」と物語に退屈していたのだが、リジーの独り善がりが根底にあると考えれば頷ける話ではある。彼女は「男は無知でもいいが女は違う」と言ってブリジットに読み書きを教えていたのだが、ブリジットからすれば「そんなことより生活に必死なんだよ」であり、それ故にアンドリューの夜這いすらも許容範囲として受け入れていたのである。アンドリューは確かに酷い男として描かれているが、殺す理由が結局“金”という浅ましさが、リジーに感情移入しきれない原因の一つだったのだろう。

本作のハイライトは、なんと言っても犯行シーンである。犯行の証拠となる返り血のついた服を残さぬため、なんとリジーもブリジットも“全裸”になって犯行に臨むのである。「全裸+斧」。なんという破壊力のある組み合わせだろうか。百合セックスシーンでは何も見せなかったというのに、ここに来て脱ぐとは!これは実際の事件で返り血を浴びた布が見つかっていないという事実に合わせた描写のようなのだが、このシーンだけで鑑賞時間分の元は取れるくらいのインパクトがあった。証拠を残さない以外にも、相手の不意を突くという意味でもナイスな作戦だと思う。