オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ゴールデン・リバー』

Sisters Brothers, 121min

監督:ジャック・オーディアール 出演:ジョン・C・ライリーホアキン・フェニックス

★★★

概要

殺し屋の兄弟と化学者と連絡係。

短評

日本語に訳すと「姉妹兄弟」という意味になるシスターズ・ブラザーズが主役の西部劇。随所に“当時の雰囲気”を感じられる点や、殺し屋(≒賞金稼ぎ)による追跡劇という状況設定はいかにも西部劇的なのだが、予想を大きく裏切る展開が待っている不思議な味わいを持つ一作に仕上がっていた。振り返ってみると、「追跡劇」と呼ぶには全く緊迫感のない牧歌的な雰囲気だったし、旅の帰結が異なるのも当然と言えば当然なのか。

あらすじ

1851年、オレゴン準州。兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)の“シスターズ兄弟”は腕利きの殺し屋だった。二人は提督の所有物を盗んだという化学者ウォーム(リズ・アーメッド)を殺す指令を受け、連絡係モリス(ジェイク・ジレンホール)の情報を頼りに旅に出る。しかし、モリスがウォーム側に寝返り、兄弟もまた彼らと“黄金を見つける”という目的を共有することになる。

感想

ウォームが盗んだ提督の“所有物”とは、川底の砂金を光らせて採取しやすくする化学薬品。ただし、化学者ウォームは「俺が開発した技術だし、俺が大儲けしてやるぜ!」と提督を出し抜いたわけではなく、その富を利用した共同体の設立を目指しているらしい。モリスはウォームに感化され、シスターズ兄弟は提督とは別の襲撃者から身を守るために彼らと共闘し、その流れから四人で一緒に砂金掘りをすることになる。奇妙な友情の成立である。そこに裏切りや策謀の臭いは特にない。

薬品が上手く作用したまではよかったものの、欲をかいたかトチ狂ったかしたチャーリーが「ひゃっはー!全部入れるぜ!」とハッスル。その劇薬の影響でウォームとモリスは命を落とし、チャーリーもまた右腕を失うこととなる。そこに提督の放った追手まで現れるとなれば、黄金を夢見た男たちには“滅びの美学”的な結末が待っていそうなものだが、そうはならないのが本作の新鮮な点である。

追手は兄弟よりもポンコツなので逃げ切れるし、全てに蹴りをつけるために提督(ルドガー・ハウアー)の家を訪れると彼は既に死亡済みという肩透かし。どう考えても死んで終わりそうだった兄弟が、久々に母親の元に帰って安寧を得るのである。なんじゃこりゃ。

物語の舞台はゴールドラッシュの時代。金が出るとの情報があれば人が動き、人が動けばそこに町が生まれるという“変化”の激しい時代であることが描かれている。イーライたちが初めての“歯ブラシ”や“ホテル”を初体験する描写も見られ(ホテルの登場以前は酒場の二階が民宿扱い。中国語でホテルが「酒店」なのは“複合施設”時代の名残か)、彼らが“旧時代”の住人であることが伝わってくる。大抵の物語において、旧時代に栄華を誇った人間ほど新しい時代に取り残されてしまうものだが、チャーリーが右腕を失ったことに象徴されるように、物理的にそれまでの生き方ができなくなってしまったことが却って良い方向に作用する場合もあるといったところなのだろうか。なんだか皮肉な話である。ウォームの理想は脳内お花畑的だったかもしれないが、彼らが死んだのは全面的にチャーリーの責任なのに。

兄弟が囚われていた呪縛は、“時代”というよりも“父親”であった。当の父親はとっくに死んでしまっているのだが、“絶対的な権力者”という意味で父に代わる存在であった提督もまた知らぬ内に死んでいた。そうして二人は呪縛から解放されたわけだが、これも時代の変化の一つの形ということだろうか。人は死ぬし、時代は移り変わる。

馬が死んで涙するような心優しい男であり、娼婦から(自作自演で)プレゼントされたショールをクンクンするキモオタであるイーライ。彼は弟がすぐにブチ切れる凶悪な性格かつどうしようもない酒癖の悪さであったため、“子守”の延長線上や弟に父親殺しをさせた後ろめたさから殺し屋稼業の相棒している。この経緯をイーライが語る時、「まあ、弟だから仕方がない」が妙に現実味を感じさせると思ったのだが、原作小説ではイーライの方が弟らしい。紹介文を読む限りでは性格の設定も少々異なっているようである。

ゴールデン・リバー(字幕版)

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