オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』

The Hummingbird Project, 110min

監督:キム・グエン 出演:ジェシー・アイゼンバーグアレクサンダー・スカルスガルド

★★

概要

ニューヨークとカンザスの間に光ファイバーを敷設する話。

短評

ジェシー・アイゼンバーグザッカーバーグ役の時のような早口のビジネスマンを演じた一作。表向きは『プロジェクトX』的な“挑戦”の物語のようだが、観客にとっては主人公たちが成功しようが失敗しようがどうでもよいという根本的欠陥があるために全く感情移入できなかった。本作も彼らの挑戦の“虚しさ”を結末にしているものの、最後にそんなこと言われても“今更”でしかないし、挑戦パートからの落差も小さい。挙げ句は、どちらかと言えば“悪役”の方が凄いのではないかと思えてしまうような話だった。

あらすじ

従兄アントン(アレクサンダー・スカルスガルド)と共に高頻度取引に関わる会社を辞め、新たな事業に乗り出したヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)。彼らの目標は、データセンターのあるカンザス州とニューヨークの証券取引所の間──1600km──を直線で結ぶ光ファイバーを敷設し、通信時間を現在の往復17ミリ秒から16ミリ秒へと短縮するもの。土地の使用権交渉や敷設工事は順調に進んでいるかに思われたが、ヴィンセントの病の発覚や元上司エヴァサルマ・ハエック)の妨害といった障害が立ちはだかる。

感想

「高頻度取引(あるいは高速取引)」という言葉を耳にしたことがある人ならば分かるかと思うが、これは巨額の資本を持つ機関投資家がさらに儲けるためのシステムであって、一般投資家や庶民にとっては無関係どころか有害な代物である。つまり、ヴィンセントたちの挑戦が成功と失敗のどちらに転ぼうとも、関係者以外には何の関係もない話なのである。本人たちにとっては大変な挑戦のように描かれているものの、そんなこと知ったこっちゃない。その前提を覆すだけの動機を感じさせるようなドラマもなく、終始一貫して“他所の話”だった。

その点は制作側も認識しているらしく、序盤に「ダビデゴリアテ」の話を、中盤の“説明パート”でレモン農家の話を挿入し、そして結末も「無意味な挑戦だったよ……」というほろ苦いものとなっている。ヴィンセントたちは自分たちが“ダビデの武器”として光ファイバー敷設に挑んでいるつもりだったが、彼らが作ろうとしているのが“ゴリアテの武器”であることはその時点で観客には自明なのである。それをどうして応援できようか。彼らが虚しい挑戦を通じて虚業ではなく実務を担う“レモン農家”に思いを馳せたところで、ニュートリノ通信とやらでウォール街を焼き尽くしてくれるわけでもない。レモン農家にとっての高頻度取引がそうであるように、本作も観客の頭上で繰り広げられる無関係な話にしか感じられなかった。

ヴィンセントたちの計画を知って妨害を仕掛ける元上司エヴァ。ハゲ頭の天才プログラマーであるアントンをFBIを利用して逮捕させる辺りは相当に悪辣なキャラクターのようだったが、彼女はヴィンセントたちが目標としている16ミリ秒を大きく上回る11ミリ秒という偉業を達成する。え……、ヴィンセントたちショボくない?“大いなる挑戦”のはずだったのに、これでは「直線で結べば最速のはずだ!」と脳筋ムーブをかましていただけみたいではないか。おまけにアントンが“電話ハッキング”によって通信妨害までしてしまうものだから、「少しでも速く」という僅かに残されていた“挑戦”の要素まで消失してしまっていた。

全てを失い、土地の使用に反対していたのに抜け道を使ってゴリ押された被害者のアーミッシュに「ごめんね、光ファイバーは抜きました」と謝罪にいくヴィンセント。このアーミッシュが出てきた時点で必要以上に計画がグダグダとなっており、結論ありきで作劇を犠牲にした感は否めなかった。

日本では「実話」という宣伝文句が使われていたが、高頻度取引や直通光ファイバーの技術的な話が本当というだけで、物語やキャラクターは全くの創作らしい。それならアントンやエヴァたちの技術的側面にもっとフォーカスしてもよかったように思われるが、こちらも結論ありきで軽く流されている。彼らが挑んだ“困難”は、もっと観客を引きつけるものである必要があっただろう。