オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『007 カジノ・ロワイヤル』

Casino Royale, 144min

監督:マーティン・キャンベル 出演:ダニエル・クレイグエヴァ・グリーン

★★★★

概要

犯罪者がポーカーで金策するのを妨害する話。

短評

六代目ダニエル・クレイグに代替わりしたシリーズ21作目。彼のボンド役就任時には批判も多かったようだが、原作の一作目を使って“誕生”の物語から始めたことを考えれば、製作サイドは始めから成功を確信していたのではないかとも思える。改めて考えてみると、この“優遇”がズルいような気さえしてくるが、これまで三十郎氏にとって「ジェームズ・ボンド」とイコールであったピアース・ブロスナンのボンド像を見事に塗り替える衝撃的な一作となった。

あらすじ

プラハで裏切り者を処分して殺人童貞を捨て、正式に00ナンバーを手に入れたジェームズ・ボンドダニエル・クレイグ)。“爆弾男”を追ってマダガスカルにいたボンドは、大使館を破壊してMに怒られるが、「ELLIPSIS」という暗号とその発信元がバハマであることを突き止める。バハマへと飛んだボンドはディミトリウスという男に接触し、犯罪者から金を集めて“投資”しているル・シッフル(マッツ・ミケルセン)の計画を阻止しようとする。

感想

冒頭の殺人で00ナンバーを取得し、これで“007”ジェームズ・ボンドが完成というわけではない。彼が自らの“甘さ”を捨て去る悲劇をもって、本作はボンド誕生の物語となる。象徴的なのは映画の最後に「ボンド。ジェームズ・ボンド」の決め台詞が出てくる場面かと思うが、他にも細かい箇所に完成していく“過程”が見られた。

たとえば、本作のボンドはヴェスパー(エヴァ・グリーン)と出会うシーンまでずっと“ノータイ”である。ようやくスーツを身に着けたかと思っても、ヴェスパーから「オックスフォード出身丸出しなスーツ」と小馬鹿にされ(それが意味するところは分からないが銀行員っぽい)、完璧な着こなしとまでは言い難い。それが彼女が目測で見立てたタキシードを身に着けた辺りから雰囲気が徐々に変化し(ヴェスパーも「やるじゃん」みたいな表情を見せる)、最後にスリーピースのスーツを着こなして「ボンド。ジェームズ・ボンド」なのである。ディミトリウスから強奪するまではダサいフォード車に乗っていたりするのだが、ここでアメリカ車を持ってくる辺りがイギリスらしい。

ダニエル・クレイグがこれまでのボンドと一線を画している点は、彼が明らかに“肉体派”であることだろう。身長の低さ(178cm。これで低いと言われるのは辛い)というハンデがありながらも、脱いで様になる筋骨隆々の肉体がアクションに説得力を与えている。海から上がるシーン(ここで前髪が額に張り付くのだけは格好悪い)や拷問シーン(本作最大の見所。「もっと右!もっと右!」)でその筋肉を見せびらかしている他に、爆弾男との“追いかけっこ”のシーンが「技vs力」の構図になっていて、壁を突き破る姿は完全にパワー系である。格闘シーンについても、相手の攻撃を“払う”カンフー的な動作が導入されており、これまでとは一味違う仕上がりになっていた。

本作のボンドガールは、アストン・マーティンも妻も命もボンドに奪われた気の毒な男ディミトリウスの妻ソランジュ(カテリーナ・ムリーノ)、ボンドの資金係として財務省が送り込んだヴェスパーの二人。二人とも見事な巨乳である。本作のボンドガールは二人とも死んでしまうのだが、ボンドと交わるまでに至らず、「夫はマイアミに飛ぶから一晩中お相手できるわ」と言っただけで殺されたソランジュが気の毒だった。また、ボンドガールではないものの、オーシャン・クラブの受付嬢(クリスティーナ・コール)が可愛い。

正ヒロインのヴェスパーは、「セクシードレスで皆の視線を釘付けにするんだぞ」とボンドに言われて実行したのに釘付けになっているのがボンド本人というのが笑える。その“完成版”よりもメイク途中の薄化粧の方が素敵な気がするのだが、これは日本人男性のロリコン趣味とバカにされるところか。死後に色々なことが判明する彼女との別れは非常に美しいシーンとなっているが、実際のヴェネチアでは水が汚くて悲惨な光景になるだろう。

空売り”という現代的な手法で儲けようとするル・シッフル。Mが「9.11の時も同じように儲けた奴がいた」と言っていたが本当なのか。事件を起こして株価を下げるという手法は規模を変えれば現実でも起こりそうに思えるが、その後に「失敗しちゃったからポーカーで取り戻そう」と考えるのは完全にヤバい人である。彼の恋人ヴァレンカ(イワナ・ミルセヴィッチ)が取り立て人から「新しい恋人探した方がいいよ」と勧められていたが、本当にその通りだと思う。ル・シッフルは天才的な数学の才能を誇っているらしいが、一歩間違えばパチスロ通いのヒモ男である。

ボンドが「ヴェスパー」と名付けたカクテルだが、単なるシェイクのウォッカマティーニではなく、ジンとウォッカが3:1でジン多めだった。バハマではマウントゲイのソーダ割りを注文していたが、これはラム酒らしい。三十郎氏でも手の届く価格だった。