オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』

The World Is Not Enough, 128min

監督:マイケル・アプテッド 出演:ピアース・ブロスナンソフィー・マルソー

他:ラジー賞最低助演女優賞デニス・リチャーズ

★★★

概要

爆死した石油王と人質経験のある娘。

短評

Q役デスモンド・リュウェリンの引退作となったシリーズ19作目。本作から007シリーズを劇場で観るようになったという意味で三十郎氏にとっては少し思い入れのある一作である。振り返れば、この辺りから悪役の設定が魅力を欠きはじめた印象はあるものの、ド派手で楽しいことには変わりない。かつてはバカみたいに見えたボンドガールについても、“逆にあり”なんじゃないかという気がしてきた。

あらすじ

石油王キング卿の資金を回収し、MI6本部に持ち帰ったジェームズ・ボンドピアース・ブロスナン)。しかし、そこには敵の罠が仕掛けられており、札束はキング卿が近付くと爆発してしまう。テロリストのレナード(ロバート・カーライル)が犯人だと睨んだMI6は、彼の人質となった経験のあるキング卿の娘エレクトラソフィー・マルソー)が次の標的となることを危惧し、ボンドをアゼルバイジャンへと派遣する。

感想

真の黒幕はレナードではなく……という展開は、なんだか“身内の揉め事”がやたら大きな話になっただけの、はた迷惑な印象を受ける。しかし、考えてみれば『スカイフォール』の方がより身内ネタなわけだし、この印象の違いは何なのか。どちらもMが恨みを買っている点については同じだが、同作のシルヴァが“ボンドにもありえた可能性”という意味でドラマを成立させているのに対し、本作は純粋にMの尻拭いなのがよくないかもしれない。登場時には“数字の魔女”と呼ばれたMだが、意外に私情に走る。彼女のせいで世界的危機が訪れたりはするものの、「本人には言わないけど最高のエージェント」とボンドへ信頼を寄せる姿は好きである。

本作のボンドガールは、ボンドが“抜群のスタミナ”を証明して任務に復帰するモリー医師(セレナ・スコット・トーマス)、ストックホルム症候群に陥って父とMに復讐を誓うエレクトラ、核に詳しい物理学者のクリスマス・ジョーンズ博士の三人。明らかにエレクトラの方が正ヒロインポジションに思えるのだが、彼女にはボンドの“神通力”が通用せず、最終的にボンド自身が射殺するという珍しい展開を辿る。感覚のないレナードは、恐らく“あちら”の方も反応しないのではないかと思うのだが、それでもボンドは彼女を改心させられなかったか。あるいは、肉体的には長髪の黒人護衛が満足させているというNTR的裏事情でもあったりするのか。

エレクトラの退場によって“繰り上がり”でメインのボンドガールへと昇格するクリスマス。巨乳がパンパンなタンクトップにヘソ出し、ショートパンツというセクシーすぎるファッションで“核処理施設”に登場する彼女が物理学者にまるで見えず、かつては一昔前のボンドガールのような阿呆なキャラクターだと思っていた。しかし、彼女に対しては性搾取的な描写という見方ができる一方で、「巨乳でセクシーで華やかな女性物理学者なんて存在しない」という方が「逆に性差別的」という擁護が可能である。そんな物理学者がいたってよいではないか。「巨乳=阿呆」ではないし、性的に魅力的だからと言って物理学に興味を持ってはいけないという道理もない。彼女こそが実はポリコレ最前線なのだ。久しぶりに『ワイルドシングス』を観たくなってきた。

ストックホルム症候群エレクトラを支配していたはずが、最終的には自らの命を投げ売ってでも彼女の目的を遂げるために頑張るハゲとなったレナード。ボンドから「エレクトラ死んだし、それやっても意味ないよ」と正論を突きつけられてもなお計画を遂行しようととする。こういう後に引けなくなってしまった人の取る非合理的な行動は心理学的にどう説明されるのだろう。レナードの脳内に銃弾が残っているのは中二っぽくて好きだったが、上手く活かされてはいなかった。

本作で引退となってしまったQ。これは純粋に寂しい。彼の引退後の楽しみとなるはずだった“釣り船”で繰り広げられるボートチェイス。水中に潜った際にボンドがネクタイを直すのが好きなのだが、テムズ川は“緑色”であり、あまり健康によくはなさそうだった。ボートチェイスで追い詰められた葉巻嬢(マリア・グラツィア・クチノッタ)は気球へと逃れ、ボンドから「逃げ場ないやん」と正論を突きつけられて自爆する。ちょっと間抜けである。他に“透け透けサングラス”が登場するのだが、あれはQの秘密道具の中でもトップクラスに実用性があると思う。