オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『007 美しき獲物たち』

A View to Kill, 131min

監督:ジョン・グレン 出演:ロジャー・ムーアタニア・ロバーツ

★★★

概要

耐EMP性能持ちのICチップ。

短評

ロジャー・ムーアのボンド役引退作となったシリーズ14作目。就任当時から本人のスタント能力は怪しかったものの、スタントダブルの使用増加によって却ってアクションシーンの迫力が増したムーアボンド時代だった。本作も概ねそのような一作だったかと思う。また、徐々に“強さ”を増してきた女性キャラクターについても本作で頂点を迎えた感があり、シリーズでもトップクラスに活躍が目立っていた。物語の方は焦点が定まらず、あまり面白くなかったものの、ムーアボンドの集大成といった趣があった。

あらすじ

ジェームズ・ボンドロジャー・ムーア)がソ連の雪山で死亡した003から回収したICチップは、耐EMP性能を持つアメリカ製のものだった。その流出元を突き止めるため、ボンドは製造元ゾリン産業社長ゾリン(クリストファー・ウォーケン)に接触。しかし、ボンドに先行してゾリンを探っていた探偵がゾリンを守る謎の女メイ・デイ(グレース・ジョーンズ)に暗殺されてしまう。なおもゾリンを追うボンドだったが、ゾリンは次世代ICチップ市場を支配するための危険な計画を進めていた。

感想

本作はボンド役ロジャー・ムーアだけでなく、一作目からの皆勤を続けてきたマニーペニー役ロイス・マクスウェルのシリーズ引退作でもある。そんな功労者のために盛装したマニーペニーやQが競馬場に赴く場面が書き足されたそうなのだが、この競馬のせいでストーリーが迷走した感があった。ゾリンはKGBから資金提供を受けた上でICチップとステロイドの研究をし、ハイテクドーピングによって血統の良くない馬を勝たせて儲けている。この技術の割にはショボい小遣い稼ぎの捜査が、やがて「KGBとかもう知らん!」「シリコンバレーを水没させて次世代ICチップ市場を支配するぜ!」という野望の阻止へと繋がる流れなのだが、前者の必要性をあまり感じられなかった。特に“障害走”におけるゾリンの妨害工作は小者感が出るだけである。

本作のボンドガールは、流氷に偽装した船でボンドを迎えてアラスカまでの水入らずな五日間を過ごすキンバリー(メアリー・スタヴィン)、ゾリンの右腕メイ・デイ、ゾリンに父の遺した石油会社を乗っ取られたステイシー(タニア・ロバーツ)、ゴーゴリ将軍が送り込んだハニートラップ女ポーラ(フィオナ・フラートン)の四人。正ヒロインはステイシーなのだが、何と言ってもメイ・デイが抜群のインパクトである。ステイシーよりも目立っているどころか、最終的にはボンドよりも目立っている感すらある。彼女は“敵側から寝返った女”の典型とは異なるものの、ゾリンに裏切られたことによってボンドに協力。「必ずゾリンを倒せ!」と言い残して自己犠牲の壮絶な爆死を遂げる彼女は、ビジュアル的にも、戦闘力的も、精神的にも、あらゆる意味で異質なボンドガールだと思う。

一方、父の遺した家を守るため、ゾリンからの示談金を受け取らずに“市役所勤務”しているステイシー。「レガシー」と言えば聞こえはよいが、あの豪邸に一人(と猫)暮らしは分不相応という気もする。どこかの国にも同じことが言えるが、現実を直視した方がよい。その方が愛猫のためにもなる。ボンドが彼女を背中に担いで市役所の屋上から梯子を降りてくるシーンでは、イギリス人諜報員に対して「USA!USA!」の大合唱が起こりそうな雰囲気だったが、それはなかった。

アクションシーンでの大きな見所は、サンフランシスコ市内での“ハシゴ車”によるカーチェイスとボンドが飛行船にぶら下がるものの二つ。前者は確かに迫力はあってよいのだが、市民や警察官に不要な犠牲を出しただけなので外交ルートを使ってほしかった。後者は、パイロットが「機首が重い。これはボンドがぶら下がってる」と言い出すのだが、飛行船の操縦はそんなことが分かるくらいに繊細なものなのか。いずれのシーンにおいても坂道やゴールデンゲートブリッジといったサンフランシスコ名物が有効利用されていた。