オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『007 私を愛したスパイ』

The Spy Who Loved Me, 125min

監督:ルイス・ギルバート 出演:ロジャー・ムーアバーバラ・バック

★★★

概要

イギリスとソ連のスパイの共同作業。

短評

ブロフェルドやオッドジョブと並び立つ名物ヴィランジョーズがデビューしたシリーズ10作目。ボンドやボンドガールよりも目立っている感すらあり、彼がサメと戦って“噛み勝つ”演出だけでも唯一無二の作品である。ボンドとアマソヴァが対等にやり合う関係が楽しいだけに、彼らが仲間になってしまってからは失速している気はするものの、ムーアボンド作品の中では割と好きな一作である。

あらすじ

英ソの原子力潜水艦が突如として姿を消す。両国政府はそれぞれ「007」ことジェームズ・ボンドロジャー・ムーア)と「トリプルX」ことアマソヴァ少佐(バーバラ・バック)に捜査を命じる。潜水艦追跡システムを追ってカイロへと飛んだ二人は互いに出し抜き合いながらマイクロフィルムを探すのだが、謎の殺し屋の襲撃を受ける。

感想

ボンドと同じように美女とベッドを共にしている男がトリプルXなのかと思いきや……という冒頭。ちょうどウーマンリブ運動が高まりを見せた時期と重なった影響が大きいのだろうが、本作のボンドガールはこれまでの作品とは明らかにひと味もふた味も違う。近年の作品でこそボンドガールがガンガン活躍しているものの、色気以外を武器に戦うというのはそれだけで新鮮である。もっとも、ボンドが出し抜かれる場面は色仕掛けに屈しているだけなのだが、ドレス姿で文句も言わずに砂漠を徒歩移動する姿はとても逞しかった(『慰めの報酬』の元ネタはこれか)。初めて美しさと格好よさが同居したボンドガールである。

ボンドとアマソヴァがマイクロフィルム争奪戦を繰り広げた結果、二人の上司が「やっぱり協力することにした」と言い出す。ここから先の失速感は否定しないが、悪役の思想は面白かった。東西陣営に亀裂を入れるなんていうのはいかにもスペクターがやりそうなことだが、ストロンバーグはひと味違う。曰く、「金なんか要らん。腐った世界を終わらせて美しき海底世界を気付くんだ!」と。環境テロリスト的な狂信者である。なお、このように思想犯の性格が強いストロンバーグだったが、「ボンドは殺すけどアマソヴァちゃんは僕と一緒にアトランティスに行くんだ」と“んほっ”てしまい、どうしようない小物感を出していた。

んほられたアマソヴァの方も、せっかく“強キャラ”のはずが何もしないで助けを待っているだけだったのが残念だった。ボンドに恋人を殺されたという設定もあまり上手く使えておらず、二人が“共同作業”を始めてからは影が薄くなった感がある。まあ、そこは「007」だから仕方がないか。ボンドに活躍してもらわないと。

本作のボンドガールは、実質的にはアマソヴァだけだろうか。アルプスの山小屋で交わる敵内通者(スー・ヴァナー)、砂漠のハーレムでボンドが「エジプトで誘惑に屈さないのは愚かだ」と名言を発して交わる女(ドーン・ロドリゲス)、カイロで色仕掛けしたくせに自分が身を挺してボンドを守る形になってしまったフェリカ(オルガ・ビセラ)。彼女たちは本当にちょい役である。また、ボンドが「良いラインをしている」とセクハラ気味に水着姿を褒めるナオミ(キャロライン・マンロー)も寝返っておらず、ファーストネームが「アニャ」と可愛いアマソヴァが目立つような構成となっている。綺麗に日焼けしている彼女はロシア人には見えないが、イタリア人を「これぞロシア美女」と崇めていた三十郎氏が文句を言う権利はない。少々離れ乳気味には見えるが、ドレス姿、ネグリジェ姿、そしてシャワーシーンと楽しませてくれた。

鋼の歯を持つジョーズ。その巨躯と言い、不気味な顔と言い、不死身ぶりと言い、圧巻のインパクトである。強すぎてネタキャラの感が強いものの、そこも含めて愛されている。身体の大きい彼が狭いクローゼットの中に隠れているという演出が好きである。

ボンドのスーツやQの新車のデザインが、当時の流行だったのか古臭さを感じさせてあまり好きではないのだが、“水陸両用”に変化する仕様は凄い。諜報員以外にとって実用性があるのかはともかくとして夢がある。次作では本当にSFになるが、本作にも近未来SFの趣がある。