オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『女王陛下の007』

On Her Majesty's Secret Service, 142min

監督:ピーター・ハント 出演:ジョージ・レーゼンビー、ダイアナ・リグ

★★★

概要

ジェームズ・ボンドの寿退職。

短評

二代目ボンドのジョージ・レーゼンビーに代替わりしたシリーズ六作目。彼の唯一の出演作でもある。コネリーに慣れていると、急に若返って「なんか違うなあ……」という違和感が拭えないものの、アクションのキレは明らかに向上しているし、“肉体派”な演出が増えている点も評価できる。テンポの悪さが気になりはしたが、これは90分映画に飼い慣らされ気味の三十郎氏側の問題でもあるだろう。果たして、最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は本作の結末が生み出した伝統を引き継ぐのか。

あらすじ

海とカジノでトレーシー(ダイアナ・リグ)という女を助けたボンド(ジョージ・レーゼンビー)。彼は“ユニオン・コルス”という犯罪組織の首領ドラコに拉致されてしまうのだが、曰く、「トレーシーは私の娘。彼女と結婚してくれ」。答えを保留したボンドが本部に戻ると、Mから「2年もブロフェルドを見つけられない無能は作戦から外す」と告げられる。その気もないのに申し出たボンドの辞職はマニーペニーの機転によって休暇へと書き換えられ、ボンドは休暇を利用してドラコから聞き出した情報を基にブロフェルドを追う。

感想

ボンドが紋章学の専門家ヒラリー卿に扮して向かった先は、アルプスの山頂にあるアレルギー研究所。ブロフェルドはそこで地球上から生命を消し去る危険なウイルスを開発しているのだが、それで各国政府を脅すのは無理があるように思う。過去作品に続いて弱気な政府は要求を呑もうとするものの、人類が滅んでしまってはブロフェルドだって困るだろうに。ウイルスというやつにはいつだって陰謀論がつきまとうが、わざわざ自分も死ぬかもしれない方法で稼ごうとすることはあるまい。“死の天使”についても、そんな回りくどい方法を取るべき必然性はどこにもなかった。

ボンドの演者が若返った成果なのか、スキーを中心とした肉体派アクションが目立っている。ヒラヒラの装飾付きのシャツを着ているような軟弱なボンドが三十郎氏の好みではないものの、やはりコネリーと比べて明らかに“動ける”。ボンドに負けじとブロフェルドまで身体を張っているのはらしくなかったが、やはり引きこもってペルシャ猫を撫でているだけでは退屈なのか。イギリス政府に対して“爵位”を要求してMから「俗物め」とディスられていたりと、彼もまたこれまでのキャラクターから変化していた。前作で顔を合わせたはずの二人が本作では初対面となっているのだが、これは原作の順番が関係しているらしい。この辺りの細かい整合性を気にさせない作風を確立したのも本作の功績か。

本作のボンドガールは、ボンドと結婚するトレーシー、研究所でボンドに夜這いされるルビー(アンジェラ・スコーラー)、逆にボンドを夜這いするナンシー(キャサリン・シェル)の三人。元々は原作第一弾の『カジノロワイヤル』に由来しているわけだが、トレーシーは“ボンドに本当に愛されてしまった”が故に死亡する。“雪山”という舞台も本作と共通していることだし、三十郎氏はマドレーヌも最新作で死ぬのではないかと思っているが果たして。

トレーシーを愛している設定のくせに平気で二人の女と浮気するボンド。ルビーもナンシーも「君は例外」と同じ台詞で雑に口説くし、ナンシーなんて「名前は明日の朝教える」と名前も知らぬ状態で交わる。しかし、調子に乗って翌日も夜這いしようとするとベッドでババアが待ち受けているのはトレーシーの死以上に悲劇だった。なお、初対面のはずのブロフェルドには「侯爵が夜這いなんてするか」と正体を見抜かれている。他にも金庫が開くのを待っている間にプレイボーイ誌を眺めて鼻の下を伸ばしたりと、凄腕スパイとは思えぬ姿を披露するボンドだった。トレーシーが殺されてしまったのも、彼がちゃんとブロフェルドにとどめを刺さなかったのが悪い。