オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・ボート』

The Boat, 88min

監督:ウィンストン・アゾパルディ 出演:ジョー・アゾパルディ

★★★

概要

霧の中の船。

短評

とても珍しいマルタ共和国製のホラー映画。最後まで観れば明らかに“ホラー”に分類してよい一作になるのかとは思うが、ホラーなのかスリラーなのか判然としない状況こそが本作の魅力と言えるだろう。登場する船の名前が「アイオロス号」なので明らかにギリシア神話を元ネタとした物語なのだろうが、その辺りの事情が分からずとも“真夏の不気味な怪談”として楽しめるような余韻を残す一作だったかと思う。途中でサメ映画いなりそうな展開を迎えたが、残念ながら出てきたのはイルカだった。

あらすじ

小さなボートに乗り込み、沖へ出て釣りを始めた一人の男。しかし、突如として現れた霧に飲み込まれてしまう。霧の中で一隻のクルーズ船を発見した男は誰かいないか呼びかけてみるものの、返事はない。自分のボートをロープで繋ぎ、クルーズ船に乗り込んだ男だったが、中には誰もいなかった。港に連絡を取ろうにも無線は不通、外に出てみると自分のボートが消えている。現在地も分からず万事休した男は、とりあえず船のトイレで用を足すのだが……。

感想

いかにも幽霊船的な船に一人きりという状況はそれだけで十分にホラー映画的なのだが、なんと男はトイレに閉じ込められる。狭い船の中の更に狭い空間の中に閉じ込められ、心霊系ホラーなのかサバイバル系スリラーなのか分からない状況が成立する。せっかく豪華なクルーズ船を用意したのに使い方としてもったいなくないかという気がしないでもないが、「一体何が起きているのか……」という不安を煽ることには成功していたため、これでよかったのだろう。

「イタズラなんだろ?」と疑いつつ、遂にトイレの扉を破って“ソリッド・シチュエーション”から脱した男。しかし、扉の向こうにはドッキリの仕掛け人なんていないため、彼は「この船に留まるのはイヤだなあ……」と行動開始。それでも再び船に“吸い寄せられていく”かのような展開をもって、本作は完全にホラーへと舵を切る……のだが、何かが起こりそうで何も起こらず、最後に「一体何だったの……」という後味だけを残して映画は終わるのである。これは不気味である。どういうことだったのかはさっぱり分からないが、その不気味さに背中がゾワッとする。正しく怪談的だった。

映画を観終わってから「アイオロス」について調べてみると、そこには“風の神”であることが記されていた。なんでもオデュッセウスに順風を詰めた革袋を与えたが、彼の部下が逆風の入った袋を開け、そのせいで戻ってきたので追い返したそうである。果たして、この話を本作とどう結びつければよいのか。……ダメだ、さっぱり分からない。“恐怖の幽霊船”のような内容だったが、終わってみれば本当に何事もなかったかのように元通りだったわけだし、主人公を無事に帰してくれた意外に“いいヤツ”だったりするのだろうか。

ザ・ボート(字幕版)

ザ・ボート(字幕版)

  • ジョー・アゾパルディ
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