オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・ハント』

The Hunt, 90min

監督:クレイグ・ゾベル 出演:ベティ・ギルピン、ヒラリー・スワンク

★★★

概要

リベラル・エリートvs貧乏白人。

短評

“ナメてた相手がヤバかった”系のホラー・コメディ。アメリカではトランプ支持者たちが「俺たちの仲間がリベラルどもに殺されてる!許せん!」という批判の声が上がったそうだが、“人間狩り”という非道な行為を楽しむリベラルの姿を皮肉っているのだから、むしろ都合が悪いのはリベラル陣営の方なのではないかと思う。リベラルたちの人物像をもっと“woke”な感じにした方が風刺がより機能したのではないかと思わないでもないが、とても愉快な一作だったことは間違いない。

あらすじ

ヨガパンツの女(エマ・ロバーツ)が見知らぬ森で目を覚ますと、何故か猿ぐつわをはめられていた。周囲には自分と同じ状況の人々がおり、その内の一人が木製の箱を開けると、中からは「豚」と「武器」と「鍵」が出てくる。状況が理解できずに戸惑うヨガパンツたちだったが、そこに突如として銃声が鳴り響く。なんとそこは“人間狩り”の会場だったのだ。

感想

主人公っぽい役で登場したエマ・ロバーツが真っ先に死亡し、その後も続々と主人公が──イケメン、腹に杭が刺さった状態で「明日は誕生日だからパイを食べる」と話す女(シルヴィア・グレース・クリム。彼女の生命力は極めて高い。役名は“Dead Sexy”)、そして銃を七丁持っているニューヨーカー──と入れ替わっては死んでいく。クリスタル役ベティ・ギルピンだけが“名前付き”で登場するため、彼女が主人公であることは想像がつくものの、エマ・ロバーツの雑な扱いに笑わずにはいられなかった。

金持ちのリベラルたちが無知な貧乏白人どもに説教をかましつつ殺戮を楽しみ、彼らをクリスタルが返り討ちにするというだけの話であれば、本作は“保守寄り”ということになるだろう。批判していたトランプ支持者たちにとってクリスタルは最高のヒーローのはずである。もっと喜べ。もっとも、“実際に映画を観ることなく批判”している層が大半なのだろうが。

しかし、その裏には「元々人間狩りなんてなかったのに噂が広まって会社をクビになったから復讐のために実現してやった」という事情があると明かされる。「ビル・ゲイツが本当にマイクロチップ入りで5Gに繋がるワクチンを作っちゃった」みたいな話である。“正しさ”を装いつつも実際には「黒人」と「アフリカ系アメリカ人」のどちらを使用すればよいのか分からないようないい加減なリベラルたちを皮肉りつつ(三十郎氏も分からない)、一方ではQアノンに代表されるような陰謀論者をバカにしている。全方位にケンカを売っていくスタイルが素敵である。もっとも、どちらかと言わずともリベラルであるハリウッドで、身内批判とも取れる“似非リベラル”をコケにする視点の方が新鮮だったように思う。

“ラスボス”アシーナとして登場するヒラリー・スワンク。“マナーゲート”と呼ばれる人間狩りの陰謀論を実現させてしまった張本人の彼女は、獲物の生き残りであるクリスタルから驚愕の事実を突きつけられる。なんと“人違い”である。そして、クリスタルが“スノーボール”の意味を知っていたことに驚かされる。相手のことをバカにしすぎだろう。もしクリスタルが本当に陰謀論者“皆の正義”であったとしても、オーウェルくらい読んでいたって何も不思議ではない。かくして、リベラルたちが“教養”だと誇っている知識の浅はかさが露呈したわけだが、同時にクリスタルが“保守のヒーロー”ではないことも明らかになるのだった。やはり全方位にケンカを売っていくスタイルか。

そうした物議を醸すような風刺要素も笑えるが、本作は“単純に楽しいアクション映画”でもある。安全ピンで解錠し、タバコの価格で相手のウソを見抜き、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』の監修を務めたという軍曹までをもばったばったと退治していくクリスタル。これはもうシンプルに格好いいし、殺し方もいちいち愉快である。クライマックスのアシーナ戦なんて意味不明に長尺で笑いが止まらなかった。クリスタルに殺される女の一人が「女だって理由で慈悲をかけられたい?」という質問に「ノー」と答えて死ぬのだが、たとえば“男のフェミニスト”のような、口ではもっともらしいことを言う自称リベラルたちもよくよく覚悟しておくべきだろう。

ザ・ハント (字幕版)

ザ・ハント (字幕版)

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