オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『密告』

Le corbeau(The Raven), 91min

監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 出演:ピエール・フレネー、ジネット・ルクレール

★★★

概要

匿名の告発手紙。

短評

ナチスドイツ占領下で撮影されたという1943年のフランス映画。同じクルーゾー監督の『悪魔のような女』はサスペンスとホラーをジャンルミックスしたようなエンタメだったが、本作は同じサスペンスでも人間の嫌なところを暴くようなジワジワと来る一作だった。スリラーというよりはドラマ寄りである。ゲシュタポ批判の意図が込められていると聞いて、なんとなく分かったような分からないような。匿名の手紙によって混乱に陥れられた町の不安を象徴するかのような“影”の使い方が上手かった。

あらすじ

フランスの田舎町。産婦人科医ジェラルドと老精神科医ヴォルゼの幼妻ローラの愛人関係を告発する中傷文書が「カラス」という差出人から届く。その後もカラスの告発手紙が様々な人の元に届き、噂は小さな町中にすぐに広まってしまう。人々は悪評轟くジェラルドを嫌悪し、また、同時に犯人探しは魔女狩りの様相を呈する。ジェラルドは町から出ていくことを考えつつ、ヴォルゼと共に真犯人を探し出そうとするのだが……。

感想

とにかく手紙の量が尋常ではないため、三十郎氏は“模倣犯”によるものなのではないかと思いながら映画を観ていた。真偽不明の手紙の力によってジェラルドが社会的に抹殺される姿を見れば、「自分も気に食わない奴を……」と考える人がいても不思議はない。これが決定的な証拠もないのに犯人を断定するような展開も含めて現代社会と似通っていると感じたのだが、考えてみれば犯人は最初からジェラルド以外にも複数の人物に対して手紙を送付しているため、この線が薄いことはフェアに示されている。

最終的には“一人の真犯人”が明らかになるも、本作が描きたかったのが“集団心理”であることは間違っていないと思う。ナチス占領下における現地民は、ナチスの協力者とレジスタンスとで激しく対立していたことだろう。そこで協力者がレジスタンスに「あいつはスパイですよ」と告発するような手紙を送れば、たちまち本作の如き状況が成立するに違いない。真偽不明の情報に踊らされ、人々は疑心暗鬼に陥り、自滅にも近い犯人探しという名の仲間割れを開始する。目に浮かぶようである。なんと息苦しいのだろう。

さて、本作の真犯人だが、その動機は「自分が満足させられない若い妻がモテる医師に気があるみたいで嫉妬した」というふざけたものだった。これはどう考えるべきなのだろう。町中の人の中傷文書をばら撒いたことと辻褄が合わないと考えるべきなのか、それとも老人が町人全員を嫌っていたと考えるべきなのか。いずれにせよ大量の文書執筆とは矛盾するような気がして、人間ドラマとしての出来の良さに対し、ミステリーのオチは今ひとつだった印象である。ただし、犯人を絞らせないという意味で“過程”はよく描けていたと思う。観客の混乱はそのまま劇中の登場人物たちのものと重なる。

本作はナチスの占領を念頭に脚色されているようだが、1917年にチュールという町で起きた事件が元ネタになっているのだとか。確かにレジスタンスやゲシュタポとは無関係に、閉鎖的で噂好きな田舎ならいかにもありえそうな状況である。もっとも三十郎氏は、たとえば職場のような“狭い共同体”が舞台になると、都会も田舎も関係なく、ちょっとした切っ掛けさえあれば人間は醜い本性を露わにするものだと思う。

密告(1943)(字幕版)

密告(1943)(字幕版)

  • ピエール・フレネー
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