オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ルーシー・イン・ザ・スカイ』

Lucy in the Sky, 124min

監督:ノア・ホーリー 出演:ナタリー・ポートマンジョン・ハム

★★

概要

宇宙から帰ってきた女。

短評

2007年にアメリカで起きた事件が元ネタの一作。「宇宙を体験したら地球の全てがちっぽけに感じられるようになった」という導入部については、宇宙という未知の空間への期待を込めて「そうなのかあ……」と思わなくもないのだが、その後が酷い。はっきり言って宇宙なんて何の関係もないような、ただ主人公の女が阿呆でどうしようもないだけの話である。不安定な精神状態の役でインパクトを残してきたナタリー・ポートマンの演技力をもってしても、そこに表現すべき精神の揺らぎがなければ意味を成さない。

あらすじ

宇宙でのミッションを無事に終え、地球への帰還を果たしたルーシー(ナタリー・ポートマン)。しかし、宇宙へ行く前とその後では、彼女にとって地球はすっかり別のものへと変化していた。ちっぽけな地球を退屈に感じ、再び宇宙へと向かうべく訓練に励むルーシー。そんなある日、彼女は“宇宙経験者の会”に参加し、皆が自分と同じ思いを抱えていると知る。そして、会に参加していたマーク(ジョン・ハム)と不倫関係になる。

感想

ルーシー本人にとって「宇宙を経験した」というのは確かに大事だろうし、(経験者が少ないので)他者から見ても「凄い経験なのだろう」とは思うものの、「だから何?」で終わるようなショボい話である。“宇宙を経験した影響”という素材を掘り下げることなく、主人公に「地球って退屈~」と“なんとなく”マウントを取らせてみたところで、観客の心には何も響いてこない。言わば、せいぜい観光に行ってきた程度の“海外出羽守”が、「あ~日本って何でこんなにダメなんだろ~。欧米では~」としょうもない“自称海外通”を気取っている姿と大差ないのである。

そんなイタい女の前に現れる“理解ある彼くん(亜種)”。彼から「分かるよ、地球人って退屈だよね」「だから宇宙経験者どうしで仲良くしよう」と言われ、ルーシーは「そうなの!」と一発でコロリと落ちる。その彼くんに実は理解なんてなくて、ただの女たらしだったというだけの話が本作なのである。「外国人に口説かれたから夫のことなんて知らない!」「でも、これは外国人みたいに私をエスコートできない夫が悪いんだからね!」と何が違うと言うのか。

彼くんが他の女にも手を出していると判明し、暴走するルーシー。そして元ネタとなった事件が起こるわけだが、どう考えても宇宙とは無関係な痴情のもつれに過ぎない。途中で訓練の様子を挿入していたりはするものの、ルーシーの宇宙への思いが伝わってくることもなく、本当に海外出羽守に置き換えてもそのまま成立するような残念な話だった。ルーシーに振り回された姪のアイリス(パール・アマンダ・ディクソン)が気の毒である。寝取られ夫の方は……、妻が「子作りはもう一度宇宙に行ってから」と延期してくれていたのが不幸中の幸いだろう(元ネタのリサ・ノワックにはいるらしい)。

マーク襲撃の罪で逮捕されてから三年後、ルーシーは養蜂場で働いる。彼女が“防護服”を頭から外して終劇である。養蜂場という生命に満ちた“地球らしい場所”で、防護服を宇宙服に見立て、彼女が宇宙の呪縛から解放されたことを表現したのだろうが、三年の間に何があったのかも分からないし、演出としては直截すぎる。最初から最後まで主人公の独りよがりだった。ハチに刺されて死んでしまえ。

“日常”のシーンは縦長スタンダード(4:3?)、“宇宙関連”のシーンは横長ワイド(シネスコ?)と、場面によってアスペクト比が変更されている。ルーシーの精神状態が不味い時に画面が縮小したり、端が揺れる分かりやす過ぎる演出はともかくとして、日常パートから宇宙関連のシーンへの移行で精神的にも画面的にも“拡がって”いるはずなのに、逆に重力に押しつぶされているような印象を受けるのはいかがなものか。