オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロッジ -白い惨劇-』

The Lodge, 108min

監督:ヴェロニカ・フランツ、セヴリン・フィアラ 出演:ライリー・キーオ、ジェイデン・マーテル

★★★★

概要

婚約者の二人の連れ子と山荘で過ごす話。

短評

グッドナイト・マミー』の監督コンビが手掛けたホラー映画。同作が気に入ったので本作にも期待していたのだが、想像以上の仕上がりだった。外形的な事実だけを見ていけば非常にシンプルな話であり、ある意味では滑稽なブラックコメディとも言える。しかし、ある一つの“特殊な事情”が物語を、そして観客をも撹乱し、これ以上なく気味の悪い映画へと変貌を遂げるのである。製作からウルリヒ・ザイドルは離れているようだが、その“意地悪精神”は確かに受け継がれている。

あらすじ

婚約者リチャード、彼の二人の連れ子エイダンとミア(リア・マクヒュー)──彼らと共に人里離れた別荘にやって来たグレイス(ライリー・キーオ)。リチャードが仕事で数日間離れる間、グレイスは子供たちと三人で過ごす予定になっていたのだが、彼らは母ローラ(アリシア・シルヴァーストーン)の自殺の原因を作ったグレイスを恨んでいた。ある朝、グレイスが目を覚ますと、電気が使えず、身の回りの物が消え、愛犬グレイディまでもが姿を消していた。

感想

普通に考えれば、どう考えても子供のイタズラである。エイダンとミアの母ローラは、別居中の夫リチャードから「正式に離婚しよう」と告げられた数時間後に拳銃自殺を遂げているため、二人がそれをグレイスのせいだと考えるのも無理はない。そんな事情があるのに三人を別荘に残して仕事に行くリチャードもどうかとは思うが(舞台は自殺から半年後。明らかに子供たちの感情よりも自分の再婚を優先している)、子供たちが「グレイスをとっちめてやろう」と“(過激な)ドッキリ”を仕掛けるのは自然な流れのように思える。そして、その通り彼らのイタズラだったというオチが待っているというのに、それでも怖いのが本作の凄さなのである。

グレイスは集団自殺を遂げたカルト教団の唯一の生き残りであり、リチャードとは取材を通じて知り合ったらしい。そのトラウマが本作を強烈に面白くしている。子供たちの仕掛けたドッキリの内容は、外部との連絡を遮断し、物を隠し、壁掛け時計の時間を弄るというだけのもの。犬を外に出してしまったことを除けば、はっきり言ってどうということはないのである。「この監督は子供が嫌いなんだなあ」と思いはするものの、『グッドナイト・マミー』の子供たちに比べれば可愛いものである。しかし、カルト出身のグレイスに対して「僕たちは死んだらしい」「今は煉獄にいる」「悔い改めよ(Repent)」とトラウマを抉るような真似をしてしまったものだから、本当に“発動”してしまうのである。

“壊れた幸薄美人役”で抜群の演技を見せるライリー・キーオ。イタズラの内容自体は大したことはないのに、そこにグレイスの“主観”が入り込む。彼女が幻聴を聞いたり、エイダンから夢遊病だと告げられた辺りで、子供たちよりもこの女の方がヤバいのではないかと観客は思いはじめる。ところが、彼女が見つめる雪原に異様な模様が広がっていたりして、これは子供たちには不可能であることから、やはり超常的な何かが起きているのではないかとも思えてくる(当然にそれは幻覚なのだが)。子供、グレイス、煉獄──事実としては明らかなはずなのに、“タネ明かし”されるまでは、そのどれとでも受け取れてしまう。恥ずかしながら、三十郎氏はエイダンの「ここは煉獄」に騙され、すっかり納得してしまった。割と疑り深いタイプなのに、今回は“まんまと”である。

凍死した愛犬を発見し、本格的にぶっ壊れるグレイス。子供たちも「これは流石に不味い」ということでタネ明かしするのだが、時既に遅し。何が起きているのか分からなかった時も不気味で怖かったが、全てが判明した後も、グレイスが「な~んだ、そうだったのか~」とは言ってくれない。ある意味では全てが「自業自得」の一言で完結するような滑稽な物語ではあるものの、子供たちが“呼び覚ましてしまった”という意味では、紛れもなく最後までホラー映画なのだった。

“煉獄説”に騙されてしまった三十郎氏としては、「ああ、宗教の絡むよく分からん話なのか……」と心配になったが、終わってみればその分野の知識を必要とするわけではなかった。劇中に登場するドールハウスというモチーフが『へレディタリー』と共通しているのだが、「実は宗教も悪魔も関係ないです」という展開だったのは、同作をミスリードとして利用していたりするのだろうか。同作と同じく、本作も比較的長尺で“ジワジワ”と観客の恐怖を煽っている。ホラー映画は間違いなくこのタイプの方が怖いと思うだが、90分枠の“スピーディー”な作品の方が多く制作されているのが事実である。“ジャンル映画”としての制約を無視するだけの実力がある者にだけ許される“ジワジワ”なのだろう。

エイダンがグレイスのシャワーを覗いたのは、一応は鏡に対する反応を確認するためなのか。いや、絶対にそんなことはない。見たかっただけに違いない。あの後、彼は部屋に戻って鬼のように……。憎い相手に興奮するという背徳感がまた……。

ロッジ −白い惨劇−

ロッジ −白い惨劇−

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