オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アンチグラビティ』

Koma(Coma), 111min

監督:ニキータ・アルグノフ 出演:リナル・ムハメトフ、ルボフ・アクショノーヴァ

★★★

概要

昏睡者の夢の世界。

短評

ロシア製SF映画(夢の世界の話が「SF」かと言われれば怪しいところだが、オチを踏まえればSFだったということでよいだろう)。Wikipediaにも書いてある通り、ストーリーは『マトリックス』、映像は『インセプション』の影響が、誰に目にも明らかなレベルで色濃く出ている一作である。ただし、両作の継ぎ接ぎだけで作られているのかと思いきや意外な展開が待っていたり、“実写と見紛うレベル”ではないとは言え、夢の世界が独創的な映像で表現されており、強い既視感の割には楽しめる一作に仕上がっていた。ヒロインも可愛かった。

あらすじ

とある男が目を覚ますと、重力の法則が乱れ、物質が崩壊していく異様な世界が目の前に広がっていた。黒い怪物に襲われそうになったところを助けられた男は、救出者の一人であるフライ(ルボフ・アクショノーヴァ)から自分たちが“昏睡者の集合記憶”の中にいることを告げられる。グループのボス格ファントムが男を邪険に扱う一方で、最古参のリーダーであるヤンは男の特殊な能力に期待を寄せていた。

感想

話の早い段階で「昏睡者の記憶(≒夢)の世界の話です」と“タネ明かし”したのは正解だったように思う。夢の世界の話であれば“何でもあり”なので、「地球の物理法則がどのように乱れればこんな世界が成立するのか」といったことを無駄に考えずに済むし(乱れているのは重力だけではないので邦題はおかしい)、何より“夢オチ”という事態を回避できるのが良い。また、非常に高いクオリティであるとは言え、“最高レベル”とまでは言えないCGっぽさの残る映像も、夢であればある種の幻想性という形で脳内処理が可能である。

何か特殊な能力を持っていることをリーダーに期待されているが、本人も仲間もそれに懐疑的。しかし、遂にその才能が開花し……という展開。主人公を導いてくれる美しいヒロインがいるところまで『マトリックス』とそっくりそのまま同じである。電脳世界から夢の中へと舞台が置き換わっているものの、自分の頭に思い浮かべたことをそのまま実現できるという能力まで酷似している。サイファーのような問題児が出てくる展開まで同じなのだが、その動機の“ショボさ”は本作の特徴と言えるだろうか。

マトリックス』や『インセプション』と比べて“スタイリッシュでない世界”が特徴の本作。「夢」と呼ぶには随分と荒れ果てた世界が舞台なのだが、そこにちゃんと説明のつく設定が用意されていてよかった。“どうやって現実に戻るのか”を焦点としながらも、クライマックスを迎える前に一度“生還”してしまう主人公。そこに待ち受けていた真相……というのが、あまりにも『マトリックス』に似ている物語の構図を逆手に取ったかのようで意外性があった。主人公の能力や彼に寄せられる期待についてもちゃんと辻褄が合う。

少し“匂わせ気味”なラストだが、もし本作がソ連時代に制作された物語であったならきっと当局の規制を受けたことだろうという気がして、どことなく“ロシア”を感じさせた。

夢の中の世界では現実の100分の一の速さで時間が進むのだそうである。“精神と時の部屋”みたいだが、影響があったりするのか。それとも相対性理論みたいな話が元ネタだったりするのか。

アンチグラビティ(字幕版)

アンチグラビティ(字幕版)

  • ライナル・ムハメトフ
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