オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『SPY TIME -スパイ・タイム-』

Anacleto: agente secreto, 93min

監督:ハビエル・ルイス・カルデラ 出演:イマノル・アリアス、キム・グティエレス

★★★

概要

ソーセージ職人だったはずの父親の正体はスパイ。

短評

スペイン製のスパイ・アクション・コメディ。パッケージはスタイリッシュなスパイ映画を装っているが、ラテンの国の陽気なコメディ映画である。原作はコミックなのだとか。見た目はいかにも有能そうで格好いいスパイの主人公が海の向こうの“JBさん”の如き獅子奮迅の活躍を披露するわけでもないし、、壮大な陰謀や騙し合いに手に汗握るような一作ではないものの、それなりに笑えて楽しめた。

あらすじ

スペイン情報局で長年働いてきたベテランスパイのアナクレト。しかし、予算削減の煽りを受けて情報局の閉鎖が決まり、バスケスという囚人の護送に立ち会っていたところ、襲撃を受けて彼に逃げられてしまう。バスケスはアナクレトに恨みを抱いており、彼と彼の息子アドルフォを殺すと言い残して去っていく。息子には自身が“ソーセージ屋”であると正体を偽ってきたアナクレトは、スパイであることを隠したまま彼の身を守ろうとするのだが……。

感想

田舎に避難して“正体を隠しながら守る”路線になるのかと思いきや、アナクレトの正体はあっさりと露見する。送り込まれた刺客を“ミートグラインダー”にかけて処分しているところを見られてしまうのである(『キングスマン:GC』が本作をパクったのかは不明)。息子の「今まで食べてきたのは人肉ソーセージじゃないよね?」という心配はもっともである。その後の展開は、アドルフォの友人マルティンが「スパイ映画の悪役はいつも身内」と語る通り、上司とバスケスが結託していたりするのだが、特に“展開”で楽しませるタイプの映画というわけではなく、随所に挿入されるギャグと“ほどほどのアクション”のバランスが魅力の一作だった。

家電屋の監視員として働く平々凡々なアドルフォ(仕事内容は“監視すること”なので泥棒を発見しても無視する)。国境なき医師団に参加するというアクティブな恋人カティア(アレクサンドラ・ヒメネス)にもフラれてしまう、車の運転すらできない男である。しかし、彼は幼い頃から密かに格闘術を父に仕込まれており、送り込まれた刺客を無自覚な強さで撃退してみせたり、父の正体発覚後は行動を共にしたりする。ここで面白かったのが、息子には「俺の仕込んだスキルがあるからできる!」と言いつつも、いざ本当に息子が何かを成功させてみせると、「俺の若い頃にはもっと~」とアナクレトが妙なプライドを覗かせる描写。アメリカ的なコメディ映画であれば、既に「息子>父親」が確定した状態で同じ台詞を言わせるのではないかと思うが、この辺りの“現役感”はお国柄なのか。

銃撃を受けた父の手当を求め、医師である元カノに助けを求めるアドルフォ。この時、彼女の家では送別会をしているのだが、チキンの丸焼きの“ドラム”の争奪戦を繰り広げていた。よく「欧米ではもも肉よりも胸肉の方が人気」と聞くが、そうでもないらしい。なお、カティアの家族の一人がバスケスと通じているというスピーディー展開である。自白剤を飲まされた家族が、「実は……」からの「実は私が……」「いや、実は私が……」をやる場面は、本作の屈指の笑える名場面だろう。

カティアとの“お別れセックス(アドルフォは仲直りセックスだと思っている)”を終えてソファで眠るアドルフォに送り込まれた刺客が、“辮髪風”の中国人である(“風”というのは、前半分は剃り上げているが後ろ髪を結んでいない)。アジア人をバカにした描写ではあるのだろうが、当のバスケスが禿げ上がって“セルフ辮髪風”になっているものだから、これが地味に笑えるギャグとして機能している。

最後は父の遺志を継いだアドルフォがスパイになっているのだが、情報局は壊滅したのではなかったか。周囲の職員が戸惑っている描写を踏まえると、あれはマルティンと二人で“ごっこ遊び”しているだけなのか。