オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『オフィシャル・シークレット』

Official Secrets, 111min

監督:ギャヴィン・フッド 出演:キーラ・ナイトレイ、マット・スミス

★★★

概要

イギリス政府機関職員の内部告発

短評

2003年にイギリスで起きたキャサリン・ガン事件の映画化作品。ハリウッドでは『バイス』のような形で「イラク戦争は違法だった」と描かれているわけだが、同盟国イギリスからも本作のような映画が出てきたことを考えると、これは既に世界的なコンセンサスだと言ってしまってよいのだろう(邦画にはないのだろうか?)。過去に国が犯した過ちに対する糾弾と「こんな勇敢な行為がありました」という“英雄”の紹介が兼ねられている一作なのだが、その内容が実に今日的な(そして日本的な)テーマを有していると同時に、作劇の面でも観客が退屈しないように工夫されていた。

あらすじ

2003年、イギリスの政府通信本部GCHQ”で働くキャサリンキーラ・ナイトレイ)は、イラクへの武力行使の是非を決議する安保理代表に対する違法な監視を指示するNSAからのメールを受信する。根拠なき開戦に反対していた彼女は義憤に駆られ、仲介者を通じてメールをマスコミにリーク。オブザーバー紙が入念な裏取りの末に遂にメールを報道するのだが、キャサリンは内部監査に対して自らが犯人であると名乗り出て、公務秘密漏洩の罪で起訴されることとなる。

感想

結果としてキャサリンの行動は非常に英雄的だったわけだが、意外に「考えなし」と言うか、直情的に突っ走った感は否めない。仲介者にリークして数週後、「なんで報道されないの!」「やっぱりやめたい……」と弱音を吐くし(その際の返答である英語の「out of our hands」と日本語訳の「既に我々の手を離れた」がとても似ているのだが、英語には「手に負えなくなった」というニュアンスがあるらしい)、逮捕後の彼女がもっともらしく語る信念にも疑問符がついたりで、決して考え抜いた末の行動という印象は受けない。したがって、彼女の“行動”には100%の賛辞を送りたいものの、「国民のためにやったんだから無罪に決まっている」というのは流石に考えが甘い。

キャサリンは取り調べの場で次のように語る。曰く、「私は(すぐに変わる)政府ではなく国民に仕えている」。これはもっともらしく聞こえるかもしれないが、間接民主制を説明する際の支配的な考え方である本人代理人関係(PA理論)の立場からすると少々怪しい。国民(=本人)が政府(=代理人)を雇い、その上で政府(=本人)がキャサリン(=代理人)を雇っているというのがこの理論の考え方であるため、キャサリンが直接的に責任を負うのは国民ではなく政府に対してである。国民の意志は選挙等を通じて反映されるものであって、キャサリンが「我こそは民意なり!」と勝手に代表できるようなものではない。あくまで“個人”として行動するのが筋だろう。

というわけで、「キャサリンの有罪もやむなしかな」と思ったりするわけだが、“公益通報者の保護”という問題が残る。本作でも少しだけ触れられていたのだが、この“公益”を認定するのが“政府”というのは問題がある。告発される側に判断する権利があるなんて酷いジョークでしかない。キャサリンの行動に独善的な部分がなくもないとは言え、“知る権利”の実現は民主主義の根幹である。きっと観客は皆キャサリンを応援することだろうが、彼女の正しさをどうやって判断するのかという“制度”こそが真に重要なのである。これらの点をどうクリアするのかに注目していると、最後の最後に意外な展開が待ってた。そうきたか、と。

これが“物語的”にはハッピーエンドにも思えるが、実際には“違法な戦争を防げなかった”のが厳然たる事実というのが皮肉である。本作の提示した問題は何も解決していないのだ。しかし、三十郎氏が今日の今日まで知らなかったとは言え、権力に対してくさびを打ち込んだ勇敢な女性がいたという事実は残る。世界は不正に満ちている。不幸にも自分がその当事者となった時、是非とも“先駆者”の存在を思い出したいものである。

リークされたメールを受け取るまでは開戦支持派だったオブザーバー紙。「官邸から情報もらってるし……」という内部事情がまるで我が国のことのようだった。記者に対する情報提供者の「官邸のご機嫌取りしてないで仕事しろ」の言葉にも「そうだそうだ!」と賛同したくなる。この時点では「どこの国も多かれ少なかれ似たような問題を抱えているのだな」と思ったのだが、日本であれば“のり弁文書”が出てきて違った結末になっただろうと考えたり、その時に開示されなかった文書が2010年には公開されたというエピローグを見せられると、隣の芝は依然として青いままなのであった。きっと世間的にも“反逆者”扱いを受け、情報までもが“怪文書”扱いされてしまうことだろう。

亡命申請を認可されていない──正規の移民ではないキャサリンの夫が国外追放されかける場面が創作っぽく感じられたのだが、彼女の夫がクルドトルコ人というのは事実らしい。これ自体もありえそうな話だし、キャサリンと夫の利害が対立するという構図もドラマを盛り上げていた。

逮捕後のキャサリンには尾行と思しき男たちがついているが、身柄を拘束されることなく自由に行動していたのが意外だった。日本の人質司法が例外なのか。