オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『mid90s ミッドナインティーズ』

Mid90s, 85min

監督:ジョナ・ヒル 出演:サニー・スリッチ、ルーカス・ヘッジズ

★★★

概要

少年、スケボーに出会う。

短評

ジョナ・ヒルの長編監督デビュー作。彼がこんな繊細な映画を撮ることに驚きを隠せないと共に、コメディ畑からフェードアウトしてしまわないかが心配である。90年代半ばに少年時代を過ごしたというのは、世代的には三十郎氏も近いところにあるのだが、地域的にも文化的にも遠くかけ離れているため、強く突き刺さる物語というわけではなかった。しかし、主人公の周囲の人間関係は上手く捉えられており、ノスタルジックな雰囲気でありながらも決して“古き良き時代”ではないことを描きつつ、だからと言って全てを否定してしまうわけではない。穏やかな視線を感じられる一作だった。

あらすじ

90年代半ばのロサンゼルス。母ダブニー(キャサリン・ウォーターストン)と兄イアンと三人で暮らす少年スティーヴィーは、ある日、スケートボードをしている少年たちのグループに出会う。興味を持った彼は兄から物々交換でお古のスケボーを入手し、レイ、ファックシット、フォース・グレード、ルーベンの四人組の仲間となる。「サンバーン」の二つ名を頂戴し、彼らと過ごす時間が増えたスティーヴィーだったが、次第にスケボー以外の“遊び”を覚えはじめる。

感想

スケボーというのは、基本的には“不良の遊び”である。本作の舞台である90年代半ばから四半世紀が過ぎ、遂にはオリンピック種目に採択された今ですらそのイメージが払拭されていないのだから、本作においても当然そういう扱いである。というわけで、親からすると子供にさせたいスポーツとは言えないだろうが、逆に当の子供にとってはそれが大きな魅力となる。「年上の友人」「不良」──三十郎氏はこれらのキーワードにときめくタイプの少年ではなかったが、家族を不満に思ったり、未成年の時に酒を飲んだりタバコを吸ったりして“大人の仲間入り”した感覚を味わった経験は多くの人が持っていることだろう。

本作で描かれているスティーヴィーの姿も、基本的にはその感情の延長線上にある。しかし、一緒に滑り、タバコを吸わせてもらい、同世代よりもひと足早く性体験できたという程度なら“懐かしい思い出”として処理されるものの、やはり少年は“調子に乗る”。大人の仲間入りした感覚が本当に大人になったと勘違いさせ、少年は立派な不良となる。ちょっと早くてキツめの反抗期という見方もできるだろうが、頭部から出血するような危険な怪我を「やべえw」と喜ばれたり、ドラッグにまで手を出してしまうものだから、これは流石にいただけない。

また、元々異なる境遇の人間が集まったグループは次第に瓦解するようになる。ワルぶってはいるが“ええとこの子”であるファックシット。「スケボーして、パーティーして、セックスして、他には何もしたくない」というタイプである。その親友レイはスケボーのプロとなることを真剣に考えているため、二人の間に溝が生じる。スティーヴィーと最初に仲良くなったルーベンは、最年少で皆から可愛がられる“子分ポジション”を失い、スティーヴィーに嫉妬するようになる。靴下も買えない程に貧しいフォース・グレードがビデオカメラと持っているのは謎だが、“仲間と楽しく過ごす時間”が永続しないことを示す人間関係の変化は上手く描かれていると感じた。

そうしてグループが完全に崩壊しかけた時、交通事故でスティーヴィーが大怪我を負うという事件が発生。楽しい思い出が苦い経験へと変わってしまいそうな瞬間だが、破綻寸前のグループを見つめる本作の眼差しは意外にも温かった。スティーヴィーとスケボーとの出会いは、手放しに褒められるようなものではない。しかし、それが彼に、そして仲間たちに“居場所”を提供したことは確かであり、彼らの間に絆が生まれたこともまた事実なのである。そのせいで悲惨な経験をする羽目になったと言えども、その全てが否定されるわけではない。

ティーヴィーが“調子に乗った”描写の中で最も印象的だったのは、兄イアンがファックシットに絡まれるシーン。家庭内では絶対的強者として弟に暴力を振るい、筋トレにも余念のない兄だったが、何もできずに去っていく。そして、帰宅後に「向こうの方が人数が多かったから」と聞いてもいない言い訳をするダサさである。暴力を振るわれていたとは言え、スティーヴィーは元々“最も身近な年上の少年”であった兄に憧れているような描写もあった(聞く音楽を真似したりするのはよくあることだろう)。それが兄の言い訳に対して全くの無反応となり、完全に見下すという変化であった。

映画の最後にフォース・グレード制作のオリジナルビデオが流れるのだが、画面の四隅がレンズフードが映り込んだかのようになっている。本作に見られる当時の文化は、リアルタイムで聞いたわけではないNirvanaくらいしか分からなかったが、このビデオ映像も当時の機種の特徴を再現しているのだろうか。