オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『現金に手を出すな』

Touchez pas au Grisbi, 96min

監督:ジャック・ベッケル 出演:ジャン・ギャバン、ルネ・ダリー

★★★

概要

老ギャングの最後の仕事。

短評

1954年のフレンチ・フィルム・ノワール。「現金」の読みは「げんなま」である。ギャング映画の古典的名作と言われるだけあって流石に“渋い”一作だった。序盤はダンディなはずの主人公に対して「ただのセクハラ親父じゃねえか!」という印象しかないものの、相棒が敵に捕まってしまった辺りで顔を見せる“青春映画的要素”で「いい奴じゃん」と掌を返す。そして、哀愁漂う結末を迎える頃にはすっかり「やっぱ格好よかったわ……」となるのだった。こういう映画のお供にはアイラモルトである。

あらすじ

20年来の相棒リトンと共に5000万フラン相当の金塊強奪を成功させた老ギャングのマックス。その仕事を最後に引退するつもりだった彼は慎重を期した行動を心掛けていたが、リトンが惚れ込んでいる踊り子ジョジィ(ジャンヌ・モロー)に情報を漏らしてしまう。しかし、ジョジィはアンジェロというギャングの情婦であり、彼女から金塊の話を聞いたアンジェロにリトンが拉致されてしまう。

感想

いかにも“シブくてダンディなワル”を気取っているマックスだが、序盤の彼に対する印象は思いの外よくない。クラブで巨乳の踊り子に対して「重そうだな。俺が持ってやろうか?」と後ろから胸を鷲掴みにするセクハラ行為を見せられてしまえば無理もない話である。ただの助平親父ではないか。それもセクハラのセンスがあまりに化石的でドン引きである(古い映画だから仕方ないのだが)。故売人の叔父オスカーの秘書にも“盛って”チュッチュとやりはじめるし、リトンに対して「いい年なんだから」と注意するような資格をまるで感じさせない。

しかし、盟友リトンが拉致されたと知り、熱い友情を披露して名誉挽回するマックス。「バカばっかりしやがって……」「あいつとなんか組まなきゃよかった……」と心の中で独りごちつつも、助けに行かずにはいられないのである。格好いいではないか。偏屈親父と青春映画的友情のハイブリッドである。リトンが拉致される前夜、彼はマックスの家に泊まり、眠る直前に「お前ならどうする?」と“ボーイズトーク”を繰り広げる(マックスの「知るかよ」で即刻打ち切られる)。翌朝、リトンは出掛けるマックスに対して狸寝入りを決め込み、ジョジィに会いに行って拉致されてしまうのだが、二人の付かず離れずの繊細微妙な距離感が上手く表現されていた。三十郎氏は“男の友情”が好きだが、あまりベタベタしていても気味が悪い。

クラブの支配人ピエロらと共にリトン奪還作戦に挑むマックス。“旧世代”vs“新世代”の構図である。マックスの老獪な作戦が奏功し……となるかと思われたが……という結末である。結局何も手に入れられなかったという意味ではダメダメなマックスであるものの、燃える金塊を前にして「うわぁあああああ」と怒り狂ったり、リトンの訃報を耳にしても嘆き悲しんだりすることはない。親友と引退資金──ある意味では全てを失ってしまったことになるのに、表情を崩さない辺りが“男の美学”を感じさせるのだった。まあ、綺麗な愛人のベティ(マリリン・ビュファード)はいるしな。

本作の場合、ジャンヌ・モロー演じるジョジィが“ファム・ファタール”に該当するのかと思ったが、特に重要な役割を果たすわけではなかった。彼女は状況が不味いと見るや逃亡し、後はマックスに問い詰められて情報提供して終わりである。「悪女」と呼ぶ程のキャラクターではなく、年甲斐もなく若い娘に入れ揚げたリトンが情けないだけである。ジャンヌ・モローのキャリア初期の出演作なので出番が少ないのかもと思ったが、そもそもフレンチ・ノワールではファム・ファタールの存在感が薄いのだとか。ファム・ファタールってフランス語なのに。