オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ニュー・ミュータント』

The New Mutants, 94min

監督:ジョシュ・ブーン 出演:メイジー・ウィリアムズ、アニャ・テイラー=ジョイ

★★

概要

思春期ミュータント。

短評

在りしの日の20世紀フォックスが製作したX-MENシリーズの最終作。それが“スピンオフ”だという事実が、本作の微妙さを端的に現していたと言えるだろうか。ヒーロー映画としては明らかに小粒で、迫力満点のアクションを楽しめるような作品ではないのだが、ドラマの方も青春映画のテンプレを雑に利用してみただけと、何を見せたいのかがよく分からない一作だった。本作は“ビギニングもの”ということになるのだと思うが、映画を観終わっても主人公たちのその後が全く気にならないのだから相当である。三十郎氏の大好きなアニャ・テイラー=ジョイまで出演しているというのに!

あらすじ

父が何者かに殺されるの目撃して気絶し、目を覚ますとベッドに監禁されていたダニ(ブルー・ハント)。レイエス医師(アリシー・ブラガ)曰く、そこは思春期のミュータントの隔離施設であり、ダニにも突然変異が起ころうとしているのだと。施設には他にイリアナ(アニャ・テイラー=ジョイ)、レイン(メイジー・ウィリアムズ)、サム、ロベルトの四人の若者がいて、彼らとの共同生活を開始するダニだったが……。

感想

「映画の冒頭でダニ(と父親)に何が起きたのか」というミステリーが物語の軸になるのかとは思うが、具体的な能力が何なのかは分からずとも、それがダニに由来するものであることは分かりきっている。したがって、物語を引っ張る要素が実質的に存在しないままにストーリーが進行し、最後にその内容が判明するとなっても、「そりゃそうだろ」としか思えない。物語の構造上の致命的欠陥である。

「誰も指摘しなかったのか」との疑問が浮かぶ構成の失敗に加え、「実はダニの仕業ですよ」と親切に教えてくれるかのように他の四人が「辛いトラウマを抱えています」と告白する。主人公に先住民を迎え(三十郎氏にはブラジル人のアリシー・ブラガとの人種的見分けがつかない)、レズビアンを登場させと、何かとポリコレに配慮した一作なのだが、「マイノリティは皆大変な思いをしている」とでもミュータントを通じて描きたかったのだろうか。もっとも、青春映画の登場人物ならば誰だって悩みくらい抱えているものだし、ミュータント特有の事情としての掘り下げも浅い。加えて、本作は「頑張れば能力を制御できる」という形で物語を締め括っていたが、これではマイノリティが本質的に危険を孕んだ存在のようではないか。

ダニの能力は“恐怖の実体化”である(ハリー・ポッターなら「リディクラス!」と対応することだろう)。それが一応のホラー要素となっているのだが、X-MENの世界で“超常現象”を起こされても「戦え」としか思えない。ちなみに、幼イリアナ(コルビ・ギャネット)のトラウマとなったスマイリング・マンの声がマリリン・マンソンなのだとか(出演したのかサンプリングなのか)。あれは明らかに性的虐待の隠喩だと思うのだが、そうした面での掘り下げも浅く、他のメンバーは過去と対峙することなくダニが“自分を受け入れて”終わりだった。

申し訳程度のアクション要素。ダニが気絶中に自身の恐怖の対象であるダーク・ベアを具現化していしまい、他のメンバーが立ち向かう。最も活躍するのはイリアナ。彼女は右腕からアーマーと光るソードを出現させ、竜の腹話術人形と共に、異次元空間を発生させながら戦う。「どういう能力なのか」はよく分からないが、発熱して裸になるロベルトや眠るダニを高速飛行で移動させるだけのサム、狼化して引っ掻くだけのレイン(この役をメイジー・ウィリアムズが演じるのはギャグなのか)と比べれば、演者が人気なだけに格段に美味しいポジションだった。「制御できなくて危険」という設定も彼女にだけは関係ない。もっとも、そのアクション描写は極めて凡庸なものであり、彼女が“ピョン”とジャンプする描写はサメ映画の如き軽さを感じさせた。

そんな危険な思春期ミュータントたちを一人で管理するレイエス医師。彼女も特殊能力持ちとは言え、流石に無茶だろう。ギャラ節約のために登場人物の数をなるべく減らしたい低予算映画の如き理不尽さである。イリアナに薬を盛られて寝落ちするようなドジっ娘一人で制御しきれるわけがないではないか。案の定、最後には脱走されてしまうわけだが、そこにミュータントたちの成長という本作の核とも言える要素を挟まずとも、不意を突けば容易に倒せる相手だったと思う。

恐らくはロシア人設定ということで、前髪パッツンのイリアナ。他に“二つお団子ヘア”などでも楽しませてくれたが、ジョイちゃんにはブロンドよりもブルネットの方が似合っていると思う。