オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クラッシュ』

Crash, 100min

監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:ジェームズ・スペイダーデボラ・カーラ・アンガー

★★★

概要

自動車事故愛好家の会。

短評

絶対的本命と言われた『ブロークバック・マウンテン』からオスカーを掻っ攫ったポール・ハギス監督作“じゃない方”の『クラッシュ』。デヴィッド・クローネンバーグが知られざる変態の世界を描いた一作である。三十郎氏の知る限りでは最も奇妙な“自動車映画”ということになるのだろう。本作の主人公を突き動かす性的衝動には一ミリも共感できるところがなく、却って自分の凡庸さに安心感を覚えるくらいだったが、不思議な世界を覗き見できたのは面白かった。

あらすじ

倦怠期を迎えているジェームズとキャサリンデボラ・カーラ・アンガー)の夫婦。ある日、ジェームズが自動車事故を起こし、相手方夫妻の生き残りであるヘレン(ホリー・ハンター)と病院で出会う。退院後に再会した二人はカーセックスに興じ、ジェームズは自分が自動車事故に対して性的興奮を覚えてることに気付く。ヘレンに連れられてヴォーンの主催するクラッシュ・マニアの会に参加したジェームズは、やがてその危うい世界に魅入られていく。

感想

「自動車事故で興奮する」という意味不明な媒介変数を挟んではいるものの、“性”を扱った映画なので割とおっぱいがいっぱいである。ただし、キャサリンがブラジャーからおっぱいを放り出す冒頭のシーンには「お!」となったが、その後のセックスシーンの数々は「一体何を見せられてるんだ?」という「???」が頭を占領し、股間を硬くするような内容ではなかった。頭の処理が追いつかないのは悲しむべきとして、三十郎氏の感性は至ってノーマルであるらしい。

兎にも角にも、自動車事故の世界に魅入られるようになったジェームズ。婚外交渉は事故以前から夫婦間で互いに公認状態だが、そのアブノーマルさは加速の一途を辿っていく。事故映像鑑賞会をしながら互いの股間を弄り、洗車機内でヴォーンに妻を寝取られ、ガブリエル(ロザンナ・アークエット)の脚の傷跡に異常な興奮を覚え、ヴォーンに舐められる。挙げ句は“追突待ち”をしているだけでイケるようになるという仕上がり具合である。

更には煽り運転によって事故を誘発し、負傷した妻に“突っ込んで”終劇となるのだが、よく考えてみれば、これは事故以前の状態とよく似ていないだろうか。普通の性行為に満足できなくなり、「もっと」を求めてアブノーマルに走ったのは、倦怠期解消のための“相互寝取らせ”にも共通している。そこで運命的に出会ってしまったのが交通事故だったという話である。ジェームズのように自動車事故とセックスの組み合わせでなくとも、たとえばポルノや暴力映画の愛好家がより過激な内容を求めるようになる傾向は一般的なものに思えるし、本作に描かれている内容は遠そうで意外と近い世界だったりするのではないか。“普通”に満足できなくなる可能性は誰もが秘めている。

有名人の事故死を再現するショーを開催し、「死が彼を永遠のスターにした」とジェームズ・ディーンを評するヴォーン。確かに俳優にせよスポーツ選手にせよ、死ぬことで“伝説化”するのはよくあるケースである。衰退局面を見せず、いい思い出だけを残して逝けるというのが大きいのだろうが、その死は我々の生命が有限であることを思い起こさせ、同時に遺伝子の保存という本能を呼び覚ますのかもしれない。危険とセックスによってのみ生を実感するのだ。