オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『I AM アルフレッド・ヒッチコック』

I Am Alfred Hitchcock, 88min

監督:ジョエル・アシュトン・マッカーシー 出演:アルフレッド・ヒッチコックイーライ・ロス

★★★

概要

サスペンスの神様のキャリア。

短評

ヒッチコックのキャリアを90分にまとめたドキュメンタリー映画。彼の作品や人物像について鋭く切り込むような内容ではないものの、キャリアの流れや作風を簡単に追うことができる“お手軽”な入門編といった印象である。既に知っていることも多かったが、面白エピソードを交えて紹介される神様のキャリアは十分に楽しめるものだった。また、彼の功績や影響力を讃えながらも、手放しに称賛できる人物でない点にちゃんと言及していることも好印象だったろうか。

あらすじ

1919年、イラストレーターとして映画業界入りし、いくつかのお蔵入り作品を経て、『下宿人』で監督デビューを飾ったアルフレッド・ヒッチコック。その後、1939年までは母国イギリスで活動し、1940年の『レベッカ』以降はハリウッドに拠点を移す。『サイコ』をはじめとする数々の傑作を世に放ったヒッチコックの魅力を、イーライ・ロスエドガー・ライトといった現代の映画監督や当時の関係者へのインタビュー音源から紐解いていく。

感想

ヒッチコックの“最高傑作”を挙げるとなると、これは意見が分かれるところだろうが、“最も有名な作品”は『サイコ』で間違いないだろう。本作でも冒頭から紹介され、最も強くフォーカスされている。純粋なサスペンスではなくホラーの要素を持つ『サイコ』だが、キャリアの終盤に差し掛かる頃に取られた同作が、ヒッチコックにとって一つの転機となったという見方が興味深かった。

ヒッチコック自身の資金を投入して制作した『サイコ』は、原作を買い占め、予告編に監督本人だけが登場し、当時としては異例の途中入場不可という徹底したネタバレ対策がとられたそうである。ショッキングなシャワーシーンが象徴的な同作だが、以降、ヒッチコックの“女性への嗜虐趣味”が作品に強く顔を出すようになる。しかし、同作が女性への暴力描写やスラッシャー映画への道を切り開いたこととなり、却ってヒッチコックのキャリアは萎んでいったのだとか(年齢もあるとは思うが)。“支配的な母親”という要素も本人の母に由来するらしく、色々な意味でヒッチコックを象徴する一作となっている。

暴力性を象徴するエピソードとして、『鳥』に主演したティッピ・へドレンが、作り物と聞かされていたのに本物の鳥をスタッフに投げつけられて襲われたというものが紹介される。ヒッチコックのブロンド美女への偏愛は、ジョーン・ハリソンというアシスタントに端を発するらしいのだが、ただでさえ支配的なヒッチコックの“暴力時代”に当たってしまった女優は少々気の毒である。

ちなみに、ヒッチコックが「恋愛関係にある」と周囲に吹聴したイングリッド・バーグマンロッセリーニとの不倫によって『山羊座のもとに』を興行的失敗に追い込み、グレイス・ケリーモナコ王妃となって映画界を去り、ヴェラ・マイルズは妊娠までしてヒッチコックから逃げ出しと(『めまい』がヴェラ・マイルズ主演ならヤバいという考察が笑える)、最高の監督なのに女優に逃げられるエピソードにはヒッチコックの問題が詰まっているのだった。今なら間違いなく映画界から追放されている人物である。

確か「映画監督というのは覗き屋」と公言する程の覗き趣味を持つヒッチコックだが、それがそのまま映画になった『裏窓』の他、性的な要素を数多く登場させている“変態”である。『サイコ』のヌードシーンが検閲に引っ掛かった時は、編集することなく「直した」と言って送り返し、それを二度繰り返すとOKが出たというエピソードが笑えた。

ヒッチコックの孫が、祖父の協力を得て『疑惑の影』についての卒論を書いたそうなのだが、評価は「C」だった。

この手の映画には必ず顔を出しているイメージのスコセッシだが、本作でも顔は出していないが“声”を出している。