オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ラスト・キングス』

Suicide Kings, 106min

監督:ピーター・オファロン 出演:クリストファー・ウォーケンデニス・リアリー

★★★

概要

大学生が誘拐したマフィアのボスは名探偵。

短評

素人集団がマフィアのボスを誘拐するとヤバい。こんなことは誰だって知っている。しかし、本作はその“ヤバさ”の方向性が一風変わっており、“自称カタギ”のマフィアが暴力を(最小限にしか)用いることなく誘拐犯を追い詰めていくという展開に独自性があった(もっとも、最終的には暴力が発動されるので、いかに紳士的なマフィアであっても関わり合いになるべきではない)。「誘拐の被害者が真犯人を暴く」という設定倒れにならない程度の意外性ある展開は用意されていたし、何よりクリストファー・ウォーケンの貫禄たっぷりな演技が良かった。ひと目見れば怖い人だって分かるだろ。

あらすじ

いつものバーに一杯やりに来たところ、若者たちから声を掛けられた元裏社会の大者バレット(クリストファー・ウォーケン)。彼らの誘いに快く応じたバレットだったが、移動中に昏睡させられてしまう。彼が目を覚ますと身体を拘束されており、若者たち曰く、「誘拐の身代金を肩代わりしてもらうために誘拐した」とのこと。バレットは脅迫のために指を切り落とされたにも関わらず200万ドルもの要求に応じるが、手下から得た情報を元に若者たちに揺さぶりをかける。

感想

バレットを誘拐した犯人は、被害者エリース(ローラ・ハリス)の兄エイヴリー、エリースの恋人マックス、計画の主犯格ブレット、医療担当のTK、そして事情を知らぬまま巻き込まれた家主アイラの五人。そして、手下ローランドからバレットに寄せられた情報とは、五人の中にエリース誘拐犯との内通者がいるというもの。表向きはエリース救出のために協力しているように装いながら、実は身代金を手に入れようとしている裏切り者がいるというわけである。

通常、マフィアのボスが“ヤバさ”を発揮するとなると、手下たちが血眼になって居場所を探して誘拐犯を追い詰めるという展開が予想される。しかし、本作のバレットは一応は引退済みの身らしく、事を荒立てようとはしない。あくまで事件解決に協力しつつ、一方では裏切り者を暴こうと画策するわけである。これにはちょっとしたミステリー映画の趣があるわけだが、“百戦錬磨”のバレットの落ち着きぶりが、彼をある種の安楽椅子探偵化しているのである(実際に椅子に拘束されて動けないのだが)。阿呆で無計画な若者たちとの対比も際立っており、堂々たる名探偵ぶりだった。推理だけでなく心理戦の仕掛け方が流石という気がする。

多少の二転三転を経て(青シャツが明らかなミスリードだったのでブレットが真犯人だけはないと思った)、エリース誘拐事件の真相が判明。見事に出し抜いたかに思われたが……という結末が待っている。ここまで有能で怖い人を解放したらそりゃそうなるだろうよ……としか思えないわけだが、そもそもバレットを巻き込んだ時点で、仮に計画が成功しても追われる身となることは分かりきっているはず。どうしてよりによって彼を選んでしまったのか。設定が根本から破綻していると言ってしまえば、確かにその通りである。名探偵バレットの活躍が面白かったから許せはするが。

本作には、名探偵バレットの活躍を描いたミステリー映画としての、そして若者たちの滑稽さを描いたブラックコメディとしての、二つの側面があると言えるだろう。バレットの手足として動くロノが暴力の担い手となっているのだが、彼の役目が裏社会の恐ろしさを感じさせるものではなく、どちらかと言えばコメディ寄りなのが可笑しかった。「アル中は遺伝的な病気なんだ……」とお涙頂戴の話をした後に相手をボコるシュールさよ。“靴”の件なんかは完全にタランティーノの風の無駄話である。