オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『誘拐犯』

The Way of the Gun, 120min

監督:クリストファー・マッカリー 出演:ベニチオ・デル・トロライアン・フィリップ

★★★

概要

妊婦誘拐で一儲けしようと思ったら……。

短評

ユージュアル・サスペクツ』で脚本家として成功を収めたクリストファー・マッカリーの監督デビュー作。こじれた人間関係と無軌道で破滅的な、アメリカン・ニューシネマ的雰囲気が魅力の犯罪映画である。それもそのはずと言うべきか、主人公二人の名前は『明日に向って撃て!』のモデルとなった二人から取っているそうである。入り乱れる思惑をサスペンスの方面に活かしきれていない気もしたが、及第点はクリアしていた。

あらすじ

パーカー(ライアン・フィリップ)とロングボー(ベニチオ・デル・トロ)の放浪者二人組は、精子を売るために訪れた病院で金持ちの“代理母”の存在を知る。二人は護衛付きの代理母ロビン(ジュリエット・ルイス)を誘拐して身代金を稼ごうとするものの、彼女に出産を委託している相手がヤバかった。裏社会との強い繋がりを有する実業家チダックは、“掃除屋”ジョー(ジェームズ・カーン)に問題の解決を依頼する。

感想

「敵に回した相手がヤバかった」というシンプルなシチュエーションもののようだが、そう一筋縄ではいかない。まず、チダックには身代金を支払う準備があるものの、それが“汚いカネ”なので警察に出どころを探られたくない。そこで自前のフィクサーを用意するわけだが、交渉を任されたフィクサーが誘拐犯と通じ合う部分があったり、フィクサーと護衛による主導権争いがあったり、実はロビンのお腹の子の父親がチダックではなかったりと、全くもってシンプルとは言えない状況なのである。

したがって、代理母と誘拐犯を巡る意外な“人間関係”という意味での二転三転は楽しいのだが、これが“誘拐”という本編の行方を十分に揺さぶるものとはなっていない。様々な“特異な対立“軸が存在するだけに、観客はそこから生じる展開の意外性に期待するわけだが、全ての線が一本にまとまることのないままに「どうやっても最後は破滅する」という形で片付けられていた印象である。『明日に向って撃て!』を彷彿とさせる絶望的な銃撃戦は見応えたっぷりだったが、主人公二人がその結末へと向かう強烈な必然性のようなものは感じられなかった。

多勢に無勢の銃撃戦。パーカーが噴水に飛び込むも水が張られておらず、中には割れたビール瓶が散乱している。腕に刺さった破片がとても痛そうだった。このシーンには悲痛ながらもある種の滑稽さがあるのだが、格好よく見えるガンアクションもアクション映画のように格好よくはいきませんよという演出か。

自分の受精卵を育ててくれていると思ったら、実は医師と代理母がグルで、二人の間の子供だった。この設定にも特殊ジャンルの寝取られの香りがするのだが、本作にはもう一つの寝取られ要素がある。チダックは年の離れた妻フランチェスカ(クリスティン・リーマン)を黒人護衛ジェファーズに寝取られている。白人男性の黒人陰茎へのコンプレックスは異常である。映画はフランチェスカが夫に「妊娠した」と告げるシーンで幕を下ろすのだが、どっちの子供なの?結局のところ、皆この女に弄ばれただけなのだ。

広げた風呂敷を畳みきれてはいなかったが、ベニチオ・デル・トロのシブさが抜群に画になることで成立していた映画と言えるだろう。なんかズルいよね。

誘拐犯 (字幕版)