オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『デッドゾーン』

The Dead Zone, 103min

監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:クリストファー・ウォーケンマーティン・シーン

★★★

概要

交通事故後に昏睡から目覚めたら超能力を獲得してた話。

短評

スティーヴン・キング原作のホラー要素は薄めの一作。どちらかと言えばファンタジーやSFの趣が強く、望んだわけでもないのに超能力を獲得した男の孤独や苦悩が物語の中心となっている。その能力の存在に疑いを差し挟むことなく物語に織り込んでいる辺りはキング原作らしいのだが、そこから導かれる結論については疑問が残った。クローネンバーグらしいグロ描写は、ハサミで自殺する男くらいに抑えられていただろうか。あれでは死ぬに死ねまい。

あらすじ

交通事故に遭って昏睡状態に陥った教師のジョニー(クリストファー・ウォーケン)。彼が目覚めると既に五年もの時が経過していた。恋人サラは他の男と結婚し、教職を失い、絶望するジョニーだったが、触れた相手の過去や未来、そして秘密を知ることのできる超能力を身に付けていることに気付く。やがてジョニーは上院議員候補のグレッグ(マーティン・シーン)と出会うのだが、グレッグが大統領となって核ミサイルを発射する将来のビジョンを見てしまう。

感想

「こんな能力ほしかったわけじゃないし」と能力の活用に後ろ向きだったジョニーだが、保安官に請われて“キャッスルロックの殺人鬼”の捜査に協力することを決意。前向きになったジョニーはクリスという少年の家庭教師を務めるようになり、そこでグレッグと出会う。タイトルの「The Dead Zone」とは「死角」の意味らしく、ジョニーは自身の能力の死角──見るだけではなく未来を変えられること──に気付く。グレッグが大統領になる前に未来を変えてしまおうという展開である。

主治医ウイザックに「ヒトラーを事前に殺せたら殺す?」と質問し、「私は医者で命を大事にするから殺すね!」との回答を得たジョニーがグレッグ暗殺に突き進むのだが、この正義感は少々どころかかなり危ういものではないか。ジョニーが自身の授かった“ギフト”を人のために使うという肯定的な描き方がなされているものの、冷静に考えると多分にトラヴィス的な暴走である。「殺す」という選択肢でしか目的を達成できないのは、ジョニーの思慮の浅さによるものではないだろうか。割とグレッグと紙一重な危険性である。この点をジョニー個人の葛藤の枠に収めてしまわず、もう一歩踏み込んでもよかったのではないかと思う。

ただし、ジョニーの暗殺は失敗に終わり、彼の願いは別の形で成就されることとなる。グレッグは壇上にいたサラの赤ん坊を盾に使って身を守ろうとし、その姿をカメラマンに撮られてしまう。グレッグのクソみたいな人間性が暴露されてめでたしめでたしなのだろうが、これもジョニーの独善的行動なくしては存在し得なかった行為であり、ある種の誘導、あるいは引っ掛けである。本来は存在しなかったはずの“酷い人間性”をもって審判が下されるというのは、民主主義の観点から考えていかがなものか。

というわけで、傍から見れば非常に危うい物語ではあるものの、一人の男の数奇な人生としてはなかなか面白かった。愛するサラの胸に抱かれて逝くことができ、ジョニー本人としては本懐を遂げての終劇となる。不運な事故により超能力を獲得する幸運に預かるも、その能力が原因で孤独となる。しかし、能力の積極的活用により、死という不幸に見舞われるもサラに抱かれる幸運に恵まれる。なかなか倒錯的である。それにしても、息子を見せびらかしに来たかと思えば夫がいるくせにジョニーと“本棚”を作り、イチャつくだけイチャついて去っていくサラは酷い女だと思う。

デッドゾーン

デッドゾーン

  • Christopher Walken
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