オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アンダー・ザ・ウォーター』

QEDA(Quantum Entangled Divided Agent), 87min

監督:マックス・ケストナー 出演:カーステン・ビィヤーンルン、ソフィア・ヘリン

★★★

概要

過去に飛んだ分身と連絡が途絶えて困る話。

短評

北欧製のSF映画。てっきり『ウォーターワールド』(あるいは『鮫の惑星』)のような海上生活系終末世界映画だと思っていたのだが、メインはタイムトラベルだった。これには正直拍子抜けしたものの、一風変わったタイムトラベルの設定が面白かった。明らかなB級映画的安っぽさがない割にSF映画としての映像面での訴求力は弱いし、色々とツッコミどころも多いが、物語としては上手くまとまっており、「ほとんど関係ないじゃん」と思っていた海面上昇という背景とテーマもちゃんと繋がった。

あらすじ

2095年、海面上昇により大陸は海に飲まれ、動植物は絶滅。真水が貴重な資源と化していた。「QEDA」という対象を分裂させて過去に送り込む時空移動技術は歴史改変の危険性から禁止されていたが、2017年の研究に人類を救う鍵があるとされ、ファン・ルン大尉の分身が送り込まれる。分身は海水を淡水に変えるタンパク質の遺伝子配列を送ってくるも、それ以降、大尉は分身との繋がりを失ってしまう。

感想

「タイムトラベル」というのは、通常、“本人”が過去や未来へと時間旅行するものだが、本作では“分身”がその役目を担う。冒頭にテロップで説明される内容はよく分からないものの、量子云々でそうなる設定のようである。ここで面白いのが、本体と分身には繋がりがあると言っても、決して意識を共有しているわけではないという点。実質的には別人である。「あれ?俺が戻ってこないんだけど大丈夫なの?」となった主人公が“自分”を捕まえに過去に飛ぶというのは、(本体と分身という設定が特に必要でないにせよ)少々滑稽かつ新鮮である。タイムトラベルが可能なのに必要に迫られている海水の淡水化ができないという技術力の矛盾は、無視する必要があるだろう。

人類を救う“オキアミ”の研究をしていたモナ(ソフィア・ヘリン)は、大尉の祖母である。しかし、彼女は飛行機の事故で亡くなっており、歴史改変を防ぐ立場からは“死んでもらわねばならぬ”という困った状況が生じている。それなら大尉以外の人物を送り込むのが筋というものだが、これも無視する必要がある。既に送り込んでしまったのだから仕方がない。祖母を見殺しにして死にゆく娘イン(Ella Solgaard)を救うのか。滅びゆく未来を見捨てて過去の美しい世界で生きるのか。それらの葛藤が大きな比重を占めるタイムトラベルものである。

泣く泣くモナを飛行機に送り込んだ大尉だったが、留守番しているはずだった彼女の娘ルイース(Esther Marie Boisen Berg)も飛行機に同乗したと判明。つまり、「親殺しのパラドックス」の状態が生じてしまう。このタイムパラドックスの帰結が描かれることはないものの、分身を送り込んだ時点で過去改変は、延いては歴史の破壊もまた不可避のものだったわけである。EDロールには動物園の様々の動物たちが登場するのだが、これが「一度失われると二度と取り戻せない」という映画全体の環境啓発的メッセージを象徴していたと言えるだろう。

「分身が言うこと聞いてくれないと困るな……」と思った大尉は、タイムトラベルの禁を犯して軟禁生活を送っている伍長に接触。彼の分身を殺して“実験”する。このシーンも「酷いことするな」と笑えて楽しいのだが、どちらかと言えば分裂や合体の方が見てみたかった。

全体的に地味でシリアスな一作ではあるものの、本体と分身が公園で追いかけっ子する場面はコメディみたいだった。

靴一足の価格が“真水100リットル”である。どうやって取引するのだろう。

アンダー・ザ・ウォーター(字幕版)

アンダー・ザ・ウォーター(字幕版)

  • カーステン・ビィヤーンルン
Amazon