オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『蜜の味 ~テイスト オブ マネー~』

돈의 맛(The Taste of Money), 115min

監督:イム・サンス 出演:キム・ガンウ、ユン・ヨジョン

★★★

概要

韓国の財閥一家。

短評

監督曰く、「『ハウスメイド』の子供が成長した後の物語」という精神的続編だそうである。“下女”が男になってはいるものの、平民が金持ち一家に入り込んで異常な価値観の目撃者になるという構図は変わっていない。いかにもドロドロでスキャンダラスそうな雰囲気を期待させた割には全体的に大人しくて物足りなかった気はするものの、ある種の滑稽さが、富裕層の気味の悪さを表現していたと言えるか。果たして、観客はあの少女の成長をどう受け止めるべきなのだろう。

あらすじ

韓国随一の規模を誇る財閥ユン家。彼らは長男チョルの脱税疑惑にも揺るがぬほどの、政財界、更には法曹に対する強い影響力を有していた。しかし、会長ユン・ギョンソンがメイドのエヴァ(マウイ・テイラー)に入れあげていることをパク・クモク夫人(ユン・ヨジョン)が知り、一家の均衡は徐々に崩壊していく。秘書として一家に仕えるチェ室長もまた、そこに巻き込まれることとなる。

感想

一族の「大旦那」と呼ばれる先代の姓が「パク」であることからも分かるのだが、ユン会長は「婿」である(韓国は夫婦別姓。理由が女性の自立とは逆らしいが)。つまり、妻の方が立場の強い一家ということになる。彼はカネ目当てにクモクに婿入りした男なのだが、庶民出身(と言っても上級なのだろうが)の彼は財閥一家の価値観に疲れ果て、巨乳のフィリピン人メイドにガチ恋する(眠る彼女の乳首を弄るシーンが笑える)。「離婚してフィリピンに行く」と言い出す。人を人と思わぬ、“使い捨て”上等の上級国民にあるまじき行動である。

それならギョンソンを追放すれば話が終わりそうなものだが、これにクモクが大いに嫉妬。夫の部屋に仕掛けた監視カメラと盗聴器から不倫が発覚するくらいなので、夫が自分の望む通りにならないのが、あるいは人非人たるメイドごときに負けたのが気に食わないのかもしれないし、それとも心の底で夫を(歪んではいるが)愛していた可能性もありうるだろう。言ってしまえば、本作はくだらない痴話喧嘩の延長に過ぎないのである。自ら望んでカネのために自分を売った男は虚しさからその生活を捨て、全てを思うがままにしてきた女はそうならないものもあると知る。

「このクソババアがナミちゃんの行く末なのか……」と悲しんでいたのだが、長女(キム・ヒョジン)が同じナミという名前なので、こちらが少女の成長した姿ということでいいらしい。もっとも、彼らがシアタールームで『ハウスメイド』を鑑賞している場面があるため、直接の繋がりを持つキャラクターというわけではないのだろう。一家の暮らしに染まっていたかと思われた彼女が最後に“人の心”を見せるため、ウニの行動は無駄ではなかったのだと希望を抱いたのだが、果たしてそうなのだろうか。

クモクがギョンソンの葬儀で読み上げた弔辞の内容から察するに、彼らは政略的に結ばれた関係ではない。夫からすればカネのためだったのかもしれないが、妻の方は色男の彼に惚れ込んで婿入りさせているはずである。つまり、彼女は“(強欲な)恋する乙女”だったのだ。人の心があったのだ。それが年季を経てすり減り、現在の醜い姿となったわけだが、ナミにもまた同じ未来が待っている可能性はないだろうか。

主人公が庶民という点は『ハウスメイド』と共通しているものの、財閥一家のドロドロ愛憎劇が核となっているため、チェ室長の視点という要素は弱い。そのため、物語の持つ没入感が毀損されてはいたものの、彼には二つの非常に印象的なシーンが用意されている。それ以外の全てのシーンが霞んでしまう程のインパクトである。それほど重要な場面ではないと思うのだが、それでよいのか。

一つ目は、夫の浮気を知ったクモクに「私だって寂しいの……」と身体を求められるシーン。このクソババアの「Oh! Come on, baby(棒読み)」よりもおぞましい喘ぎ声を三十郎氏は他に知らない。彼がナミに求められた際に断った時はトラウマで不能になったのではないかと心配したが、飛行機のトイレという特殊な環境だと復活していて安心した(“履いたまま”だとどういいの?)。彼は行為後に大量のレモンをかじって口内環境を正常化していたが、あれだとレモンがトラウマスイッチになりそうな気がしなくもない。

二つ目は、出所したチョルから「母とファックして出世したんだよな」と罵倒され、「降りろ」と車を停めるシーン。「おお、カッコええやん」と思ったら、彼は喧嘩がめちゃくちゃに弱く、あっさり負ける。何という情けなさ。「スカッとさせてくれ」と期待させておいて何という体たらくか。ガッカリだよ!庶民は何もやっても上級に勝てない。

アメリカ人の取引相手ロバートの姓が「アルトマン」だった。

「月給取り」という言葉がここまで否定的に用いられているのは興味深い。