オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ミラーズ 呪怨鏡』

Pikovaya dama. Chyornyy obryad(Queen of Spades: The Dark Rite), 93min

監督:スヴィヤトスラフ・ポドゲイエフスキー 出演:アリナ・ババク、イゴール・クリフノフ

★★★

概要

鏡の中のスペードの女王

短評

ロシア製のホラー映画なのだが、ヒロインが美少女で彼女の母親も美人だという以外には、あまりロシア要素の感じられない一作だった。降霊会的な儀式をしたために悪霊に襲われ、“謎のプロフェッショナル”が解決してくれるという展開はテンプレ通りであり、そこから何かしらの意外性を発揮することはない。最近のロシア映画は、どうも“ハリウッドに負けないVFX”という技術力だけで満足しがちな印象を受ける。恐らくはハリウッド映画による文化的侵略を防ぐために国産コンテンツを充実させる意図があるのだろうが、それではハリウッド映画に気軽に触れられる三十郎氏が強いてロシア映画を選択する理由はない。

あらすじ

友人が目の前で死亡して娘アーニャ(アリナ・ババク)の様子が心配だからと、元妻(エヴェニヤ・ローザ)から呼び出しを受けた自動車修理工のアントン。娘の話を聞いてみると、 どうやらシッターのカーチャ(ヴァレリヤ・ドミトリエワ)たちと行った“スペードの女王”の召喚儀式が関係しているらしい。半信半疑だったアントンも、検死を担当した医師から奇妙な写真を見せられ、その話を信じざるを得なくなる。

感想

設定も展開も完全にテンプレ通りなので、特にストーリーについて言及するようなところはない。スペードの女王の設定にも何かロシアの社会的背景が反映されているようには思えず、所謂“ホラー映画を成立させるため”の存在である。ゆらゆらと宙を舞うスペードの女王やアーニャたちが何もないのに首を絞められる描写のVFXの出来は良いため、普通に観ていられるクオリティの一作ではあるものの、「ロシア映画」に対して「ロシア的なもの」を求めるならば、残念ながら期待はずれということになるのだろう。

アーニャちゃんがとっても美少女だという以外に、助けてくれるのが“神父”じゃないという点は、一応は宗教を否定してきた(旧)共産主義の影響と受け取ってもよいのだろうか。スミルノフという元医師は、第二の犠牲者となるセリョージャと連絡を取っており、その履歴からアントンに助けを求められる。彼が「女王は光の粒子で増幅する。これは科学だ」と言い出したり、「アーニャを臨死状態にして人間にDNAが似ているネズミに女王を転移させる」と“科学的解決”を図ろうとする辺りは、ロシア的だったということになるのだろうか。そもそも女王の存在自体が非科学的なのだが。

なお、医者らしく科学的精神を発揮するスミルノフだが、「助けになれない」と言ったのにアーニャに「GPSで住所分かるよ」と看破されてしまう少々抜けた男である。アントンが「ネズミじゃダメだ!俺が!」と飛び出したところに、彼が「いや、俺が!」としゃしゃり出てくる「どうぞどうぞ」な展開も笑えた。スミルノフ以外の医師である検死担当者だが、部外者のアントンに写真を見せるというのは、彼の職業倫理はどうなっているのか。これも笑いどころなのか。それともロシアでは普通なのか。

三十郎氏にとってはあまりに“普通”な一作だったわけだが、どうやら『Пиковая дама: Зазеркалье(Queen of Spades: Through the Looking Glass)』という続編が制作されているようである。本国の観客を満足させられたのならば、本来の目的を達したということになるのだろう。何か土着要素を活かしたようなホラー映画はないのだろうか。