オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハウスメイド』

하녀(The Housemaid), 107min

監督:イ・サンス 出演:チョン・ドヨンイ・ジョンジェ

★★★

概要

家政婦が主人の子を身籠る話。

短評

下女』の現代版リメイク。同作の内容を忘れない内に……と思っていたらプライム特典から外れてしまったが、一ヶ月も経たずに復活した。プライムビデオのすることはよく分からない。「リメイク」ということで一家の主と家政婦が関係を持って妊娠するという基本設定は同じなのだが、その印象は大きく異なる。“視点”が家政婦の側になっていたり、誘ったのが主の方からだったり。『ミナリ』でオスカーを受賞したユン・ヨジュン演じる古株メイドが「この家の人間は怖ろしい」と繰り返していることに象徴されるように、恐怖を与える主体がオリジナルとは逆転している。

あらすじ

コ・フン家に住み込み家政婦として雇われたイ・ウニ(チョン・ドヨン)。古株家政婦チョ女史(ユン・ヨジュン)の態度はそっけないものの、幼いナミ(アン・ソヒョン。『オクジャ』の子だったのか)は可愛らしく、順調な仕事の滑り出しかと思われたが、一家の主フンに誘われて関係を持ってしまう。二人の関係は数回で終わったものの、ウニが妊娠したことにチョ女史が気付き、フンの妻ヘラ(ソウ)と彼女の母がウニの中絶や流産を画策する。

感想

登場シーンこそ小生意気なクソガキのようだったが、「自分のためにも人に礼儀正しくしなさいとパパから習った」と話すナミをウニはとても可愛がる。メイドに髪まで洗ってもらうという中世の貴族の如き振る舞いを見せるヘラもまた、最初からウニを蔑んでいるわけではない。しかし、妻が妊娠中でさせてくれないというわけでもないのに、フンが妻との行為直後にウニの部屋にやって来る性欲魔神ぶりを発揮し、これにウニも「ああ、いい匂い!」と発情。彼女の妊娠の発覚によって潜在的な対立が表面化するという展開である。

これは一見[金持ちvs貧民]の定番構図のようだが、少々趣を異にする点が見られる。“本当の金持ち”とでも呼ぶべき生まれながらの金持ちはフンだけであり、どうもヘラは“玉の輿”に乗った口であるらしい。したがって、彼女や彼女の母が「取り分が減るぞ」とウニのお腹の子を亡き者にしようとするのに対し、フンは「産んでいいよ」なのである。

全ての元凶となったフンは、恐らく何も考えていない。きっと悪気もない。望んだ物は何でも手に入るのが当然の環境で生まれ育ち、ウニと関係を持ったのも、彼女の太腿に欲情し(場所が浴場だけに)、妻とのセックスでは満足できなかったところに都合のいい女がいたというだけの話である。そこに特別な感情は何もなく、娼婦のような扱いで小切手を渡して「はい、終わり」である。

一方のヘラたちも、“何でも金で解決しようとする”という点においてはフンと同じなのだが、「せっかく掴んだ富を手放してなるものか」という意地汚さが見られる。そんな彼女たちが目的のためには手段を選ばないことをチョ女史は「怖ろしい。だから金持ちになれた」と評するわけだが、「いくらでもあるからくれてやる」的態度のフンとは明らかにタイプが異なる。この三者の構図が『パラサイト』における[地上vs半地下vs全地下]の対立を見ているようで、半地下から全地下への攻撃が最も激しいという共通点が特に興味深かった。

ヘラに毒を盛られて流産し、一家への復讐を心に決めるウニ。この復讐方法がなかなか壮絶で衝撃的なのだが、その後、一家はこれまでと変わらぬ様子でナミの誕生日を祝っている。これは冒頭の飛び降り自殺の場面にも見られた人の死への無関心が、金を持っているか否かに関わらず現代人の病として回収されたということなのか。しかし、ハッピーバースデーを歌うヘラの姿は完全に壊れてしまっているように、フンだけが本当に何事もなかった通常営業という風にも見える。これまでは手段を選ばぬヘラたちが怖ろしい存在として描かれてきたが、“ウニを同じ人間だと思っていない”という意味での真の怖ろしさをフンが最後に見せ、なんとも言えない空気の中で終劇を迎えたのだった。果たして、ナミは“どちら側”なのか。

オリジナル版は、最後に「皆も気をつけなきゃダメだぞ」と夢オチ化するのが必要となる程に“当時としては”ショッキングな内容だったようだが、2010年の作品ともなるとその奥ゆかしさから一転して大胆な描写が増えている。上述の“復讐”に加え、ウニがお風呂で流産する場面にもギョッとさせられる。また、性的なシーンも生々しく、行為時の肌のクローズアップが生々しく、「口に出すぞ。吸い上げてくれ」といった会話まであるのに驚かされた。