オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『スキャンダル』

Bomshell, 108min

監督:ジェイ・ローチ 出演:シャーリーズ・セロンニコール・キッドマン

他:アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞(カズ・ヒロ他)

★★★

概要

FOXニュース会長へのセクハラ訴訟。

短評

2016年にFOXニュースの元女性キャスターが会長へのセクハラ訴訟を起こした事件の映画化。ハーヴェイ・ワインスタインが表舞台から引きずり落とされ、「Metoo運動」が世界中に広まったのが2017年の話なので、それよりも前に権力者に対して声を上げるという行為は大変な勇気が必要であったことだろう。ただし、その“偉業”への評価はそれとして、話のまとまりが少々悪かったり、“逃げ”だと感じられるような描写があったりして、それほど面白いというわけではなかった。もっとも、強者と強者の争いに強い興味を持てないことが根本的な理由であると認めるのがフェアではあろう。

あらすじ

FOXニュースの創設者であり、社内で絶大な権力を誇ってきた会長ロジャー・エイルズ。2016年、彼からの性的要求を拒否して解雇されたというキャスター、グレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が訴訟を起こす。彼女の訴えは社内外に大きな波紋を広げ、FOXの看板キャスターであるメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)や、これからキャリアを築こうとしているケイラ(マーゴット・ロビー)もまた立場の選択を迫られることとなる。

感想

綿密な準備を経て訴訟を起こすも、「声を上げる人が出てこない……」と泣き言を漏らすグレッチェン。この姿を見て、思わず「え?アホなの?」と思ってしまったが、事前に告発者を準備しておくのではなく、あくまで“自発的”に声を上げてもらうことが重要だったことになるのか。三十郎氏が「Metoo」という運動に心から賛同できないのは、それが証拠を伴わない魔女狩りの様相を呈するからである。「司法では解決できない問題を~」という論理はあるのだろうが、それをいいことに売名のために利用した者が運動自体への信頼を毀損した感は否めない。

実はグレッチェンは一年分の会話を録音した“物証”を持っていて、「最初から使えよ」と思わなくもないのだが、他の被害者が声を上げるのを待った上でそれを持ち出すことにより、“自分だけじゃない”という被害の実態を浮かび上がらせていた。自分が賠償金をもらってめでたしめでたしでは、ロジャーのセクハラが常態化していた事実を白日の下に晒し、彼を表舞台から完全に葬り去るのは難しい(彼は本件の翌年に本当に死んだ)。この本来の意味での「Metoo」の持つ意義は上手く表現されていたと思う。

その一方で、“告発者の勇気”の部分は明らかに弱い。「既に落ち目だった上にクビになって失うもののないグレッチェン」というのは被害者バッシングだろうが(解雇されたくて好き放題やっていたようにしか見えなかった)、その彼女が「拒否したからクビになった」と言い、看板キャスターのメーガンも「ヤラれそうになったけど逃げた。でも何故か仕事はもらえた」と証言する。まるでグラビアアイドルが「周りの子はやってるって聞くけど私はやってません」と枕営業を語るかのようである。セクハラの告発は、権力者を敵に回すという以外に、「一生枕のレッテルを貼られる」という不安を伴っていると劇中で語られる。それなのに主要な二人が「私はやってません」で済ませておいて、架空のキャラクターであるケイラに全てを押し付けるのは“逃げ”以外の何物でもないだろう。

その架空の存在ケイラだが、ゴリゴリの福音派家庭で育ち、FOX以外は眼中にないという彼女が、隠れ民主党支持者でレズビアンの同僚(ケイト・マッキノン)に理解があり、ロジャーの代わりに現れたルパード・マードックを見て局を去るというのは、実話原作にしては“作られたキャラクター”の感が強かった。彼女が“脚”を見せるシーンで罪悪感を覚えながらも興奮してしまったという男性諸氏は、自分が加害者とならないように日頃からよくよく注意しておくべきである(加害者となるための権力を持ち合わせていないとしても、この欲望が“オスの本能”なのだと認識して社会を見るべきである)。

パッケージを見ると女性三人が権力者に立ち向かう映画のようだが、彼女たちの共演シーンはほとんどない。エレベーターで一堂に会した瞬間にワクワクさせられただけに物足りなくはあったが、本件には“様々な立場がある”という要素が重要なため、仕方のないことだろう。ただし、“主人公”となるメーガンがトランプと舌戦を繰り広げる本質からズレたシーンに尺を割き過ぎており、“権力者を敵に回す”恐怖を告発前に描いておくためとは言え、「トランプ批判したいだけだろ」という浮いた感じがあったのは否めない。

オスカーを獲得した特殊メイクだが、この効果は今ひとつ感じられず。そもそもモデルとなった人物を知らないので「似てる!凄い!」とはならないし、元の顔から別人へと変貌を遂げているわけでもないため、特殊メイクなしでも何の問題もなく観られたかと思う。アメリカ国内では大変な有名人のようなので、本国の観客の印象は異なるのだろう。

スキャンダル (字幕版)

スキャンダル (字幕版)

  • 発売日: 2020/04/29
  • メディア: Prime Video