オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『家族を想うとき』

Sorry We Missed You, 101min

監督:ケン・ローチ 出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド

★★★★

概要

働けど働けど猶わが生活楽にならざり。

短評

わたしは、ダニエル・ブレイク』から三年。御年八十を超えてなお社会に対する鋭い視点を失わないケン・ローチの最新作。彼の作品はあまり頻繁に観るものではないと思う。だって観ていて辛すぎるんだもの。同じく底辺を描き続けるダルデンヌ兄弟の作品には、“ダメな人がダメなことをしてダメになっていく”というある種の好奇心をくすぐる要素がないでもない。しかし、本作の登場人物には何も落ち度もなく、必死で歯を食いしばって頑張っているのに事態が改善することはない。正に社会の被害者である。その姿は強烈に胸を締め付けるものであった。

あらすじ

ニューカッスルに暮らす元建設作業員のリッキーは、個人事業主として配送業者と契約する新たな仕事を開始する。訪問介護士の妻アビーの車を売却して仕事に使うバンを購入し、厳しいノルマをこなそうと懸命に働くリッキーだったが、家族のために頑張る彼の思いとは裏腹に一緒に過ごす時間を仕事に奪われ、家族がバラバラになっていく。

感想

原題の『Sorry We Missed You』は不在連絡票に記されている言葉なのだが、邦題の『家族を想うとき』もなかなか皮肉なものだと想う。日本だとUber Eatsに代表される「ゼロ時間契約」と呼ばれる“非雇用契約”による仕事を「新しい働き方」などと喧伝する向きもあるが、それが「新しい搾取方法」に過ぎないことがよく分かる。委託側と請負側には圧倒的なパワーバランスの格差があり、前者は一方的に自分に有利な契約を後者に押し付ける。“労働者”として法に守られぬ“自営業者”は身を粉にして働き、結果として家族のことを考える余裕を奪われるのである。

「それなら契約しなければいいだけ」という反論があるかと思うが、リッキーに唯一の落ち度があるとすればそこだろう。「稼げる」という甘い言葉に騙されてはいけない。プライド云々と言わずに生活保護を受けた方が結果的にはマシだったわけだが、それに対応するかのように“息子の尊敬を勝ち取れない父親”の辛さを描きこんでいる点が上手いと思った。また、ドライバーを管理するマロニーが「安くて荷物が届けばそれでいい」と発言しているように、彼らの苦境には我々消費者の責任もある。社会全体が目先の利益ばかりを追うことにより、一部の恵まれた者以外が互いの首を締め合ってしまっている。この状態を“望ましい”と評価する人でなしでないならば、明らかな市場の失敗として規制を求めるべきだろう。

長時間労働、休みなし、厳しいノルマ、各種罰金を含む理不尽契約を課せられたリッキーの配送業も大変だが、妻アビーの訪問介護の仕事も観ていて胸が痛む。彼女はとても心優しく「母に接するように」とワガママな利用者たちの世話をするのだが、給与の支払いは訪問ごと、交通費は自腹と、こちらも夫と似たような契約形態となっており、雑に仕事した方が合理的という状況が生まれてしまっている。しかし、それができずに疲弊していくアビーの姿は、正に正直者が損をする世界を象徴していた。

両親が働き詰めで家庭にいないと、当然子供たちにも影響が出てくる。反抗期の息子セブは学校をサボり、元気に見えていた娘ライザ(ケイティ・プロクター)もおねしょをするようになってしまっている。両親は、子供たちを食べさせたい、大学に行かせたいと頑張っているのに、家庭内に不和が生じて逆効果になってしまう。本来、彼らが文句を言うべきは企業のはずなのだが、それをやると「じゃあ契約解除ね。代わりはいくらでもいるから」で話が終わって失業してしまうため、抱えている不満や辛さがより身近なところへと向かってしまう。この「誰も悪くないのにどうして……」という感覚がどうしようもなくリアルで、ライザの告白には思わず涙させられた。

全体として辛くて辛くて仕方のない一作ではあるものの、マンチェスター出身でユナイテッドファンのリッキーが客から「地元クラブを応援しろよ」と言われて煽り合いに発展するシーンだけは笑えた。「アグエロのシュートで云々」の話は分かるが、どんどん古い話が出てくる辺りが流石ご当地である。今シーズンも序盤の不調がウソだったかのような強さを見せて優勝したシティだが、ケインを獲得したら流石に一強リーグになってつまらなくなるのでやめてほしい。ペップではCLを獲れないのでチェルシーに来てください。ハーランドでもいいです。

家族を想うとき (字幕版)

家族を想うとき (字幕版)

  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: Prime Video