オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『かもめ』

The Seagull, 99min

監督:アントン・メイヤー 出演:アネット・ベニングシアーシャ・ローナン

★★

概要

青年作家が恋人を母の恋人に寝取られる話。

短評

チェーホフの同名戯曲の2018年の映画化作品。日本では劇場公開されず、今のところ、WOWOWの独占配信のようである(シアーシャ・ローナンが出てるのに知らなかったわけだ)。原作は大変に偉大な戯曲らしいのだが、三十郎氏にはその真価がどうも理解できず、薄味な寝取られ物語としか認識できなかった。登場人物が揃いも揃って自意識過剰な辺りがロシア文学らしかっただろうか(決闘要素もある)。

あらすじ

女優のイリーナ(アネット・ベニング)が、兄や息子コンスタンチンの住む湖畔の邸宅に夏の休暇を過ごしにやって来る。コンスタンチンの恋人ニーナ(シアーシャ・ローナン)を主演に迎えた彼の舞台が不発に終わり、両者の関係が悪化する一方で、ニーナはイリーナの恋人ボリスに惹かれるようになる。

感想

六角関係である。イリーナとボリス、コンスタンチンとニーナ、そして使用人の娘マーシャ(エリザベス・モス)と教師のメドヴェジェンコ(原作ではロシア文学らしく“難解な名前”が使用されているようだが、映画ではファーストネームだけだったので混乱せずに済んだ)。ボリスが(ハゲていて)性欲の強そうな男であるため、彼がニーナを籠絡するNTR展開かと思いきや、意外にもニーナの方からアプローチする。女優志望の田舎娘である彼女が都会からやって来た有名作家に対して目を輝かせ、ボリスの方も「若くて可愛い子に言い寄られてるのにババアに構ってる場合じゃないぜ」と満更でもない様子。

この過程には飛躍を感じ、コンスタンチンとイリーナが各々感じているらしい「嫉妬」が本作のテーマなのかと思ったのだが、二人は本当に駆け落ちしてしまう。イリーナが自分の半分の年齢のマーシャと「どっちが若く見える?当然私でしょ?」なんて言い出す見苦しいにも程がある場面やコンスタンチンが作家として芽が出ず苦しんでいる場面があるため、ニーナとボリスという両者のコンプレックスを刺激する存在を通じて人間の滑稽さが浮き彫りとなるものの、彼らが“勝手に嫉妬していただけ”とはならない。嫉妬するだけの事実があったことになる。

ニーナとボリスが駆け落ちしてから二年後。ニーナはボリスの子を産むものの彼に捨てられ、おまけに子供は死亡。あろうことかボリスはイリーナの元に戻っている。作家として成功したコンスタンチンが「それでも君を愛してる」と告げるも、「まだボリスが好きなの」と返すニーナ。この全員の空回り具合は人間臭いと言えばそうなのだが、これは喜劇だったということでよいのか。100分弱にまとめられた濃密な人間模様ではあるのだが、丁寧な心理描写があるとは言えず、言わんとするところもよく分からずじまいだった。状況がドロドロの割には……という物足りなさもある。

六角関係と書いた割に話に全く絡んでいないマーシャだが、彼女は真の意味で空回りに終わる。彼女はコンスタンチンを愛しているが、階級の違いからか諦め、人生を喪服をで過ごしている(このキャラ設定は面白くて好き)。「作家は教師の生活苦について書くべきです」と無駄に自己主張の強いメドヴェジェンコの求愛を袖にしていたものの、二年後には“結婚して不幸”になっている。自らの思いに素直に生きても押し殺して生きても、誰も幸せになれない。これを医師は「若さ」だと言うが、マーシャの「言葉に困ったら皆そう言う」という返しが秀逸だった。おっさんたちには滑稽に映るものの、若きウェルテルがそうであったように、本人たちはとにもかくにも重要な問題なのだろう。

かもめ (岩波文庫)

かもめ (岩波文庫)