オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ポップスター』

Vox Lux, 114min

監督:ブラディ・コーベット 出演:ナタリー・ポートマンジュード・ロウ

★★★

概要

ポップスターの半生。

短評

監督が怪作『シークレット・オブ・モンスター』のブラディ・コーベットということで、“栄光と挫折”の紋切り型だけではいかない芸能人ものである。一人の人間の半生に“時代”を投影するかのような意図は感じられたのだが、その真意は掴みきれず。メタファーの咀嚼が不十分に終わったのは三十郎氏側の問題だとしても、“表”面となる人間ドラマにも魅力を感じられず、ナタリー・ポートマンの“ウザい演技”が光っていただけだった。

あらすじ

1999年。セレステ(ラフィー・キャシディ)の通う学校で銃撃事件が発生。セレステも銃撃を受けて負傷するが、なんとか一命を取り留める。その後、追悼式典で披露した歌が全米で大きな注目を集め、彼女はプロのミュージシャンとしてのキャリアを歩み出し、やがて大きな成功を収めることになる。時は流れて2017年。数々のスキャンダルや姉エリー(ステイシー・マーティン)らとの関係悪化によって頂点から転落しつつあるセレステナタリー・ポートマン)だったが、故郷スタテン島でのコンサートで復活を期す。

感想

表面だけを切り取れば何の面白みもない話である。銃撃事件の被害者がスターダムを登り詰めるも、“銃弾が脊椎に埋まったまま”という設定が表す通り、そのトラウマからは逃れられない。悲劇によって生み出されたスターが、その悲劇に苦しめられ、(直接は描かれないが)紋切り型の栄光と挫折を経験し、最後にステージで輝く姿を披露する。確かに数奇な人生ではあるが、それだけで観客を引きつける物語ではないため、多少の裏読みが必要となる。

1999年の銃撃事件と言えば、ご存知「コロンバイン高校銃乱射事件」である。その“生き残り”が、9.11後の世界でスターとなる。言わばセレステアメリカの悲劇を先取りした存在であり、9.11によって世界が彼女に追いついたという見方ができるか。

ポップスターとは、ファンにとっての“神”である。本作は、銃撃事件後にセレステが救急車で搬送される場面でEDロールのようなOPクレジットが流れ、そこで一度“終わり”を告げる。その後、『創世記』や『復活』と題した聖書風のチャプターに沿って物語が進行するため、悲劇によって信仰が喪失された時代に、セレステが新たな神として君臨することになると示唆される(本人もMVで着用したマスクを被った犯人によるテロ事件を受けて「私が新しい宗教」と発言)。

本作はそんなセレステの“復活劇”となるわけだが、三十郎氏には彼女が本当に復活したようには見えない。それはステージに上がる前に泣きじゃくるメンヘラおばさんな姿を見せられているからなのかもしれないし、そもそもステージでのパフォーマンスが大したことないからなのかもしれない(狙って演出しているわけでないなら酷い出来だと思う)。それでも彼女の歌を聞いた聴衆は喜ぶのである(コンサートが始まった時には顔を曇らせていた姉と娘も最後には笑っている)。

これを彼女の持つ“何か”──スターの力と見ることもできようが、彼女がステージ上で発する言葉は、暗黒な実生活と比して余りにも安っぽい。それなのにファンが「これって私のことだわ」みたいに喜んでしまうものだから、その軽薄さには舌を巻く。この事実と“宗教”というものを併せて考えてみると、その“救い”の薄っぺらさに気づくはずである。何でもない人間を信者が勝手に祀り上げているだけなのだ。セレステが「悪魔と取引した」なんて話を誰も信じまいが、それはキリスト他の預言者たちにも同じことが言えるだろう。

以上のようなメタファーが、もっと確信を持てる形で描かれていたのならば、三十郎氏は「面白かった」という評価を下しただろう。しかし、これはあまり面白くない話を自分に考えに合わせて曲解しているだけであり、恐らくは大いに勘違いしている点は強調しておかねばなるまい。特に最後のステージの印象だが、もしあれが“圧巻のパフォーマンス”を意図しているならば、三十郎氏の解釈は根本から間違っていることになる。

トゥモローランド』の頃には橋本環奈似の美少女だったラフィー・キャシディだが、すっかり身長が伸びてスタイル良く成長しており、もはや似ているとは言いづらくなった。彼女は若い頃のセレステセレステの娘アルビーの二役を演じているのだが、セレステの姉エリーはステイシー・マーティンが一人で演じており、2017年の話ではナタリー・ポートマンと年齢が逆転してしまうので違和感があった。なお、キャストの二番目に名を連ねるマネージャー役ジュード・ロウの存在感は薄い。

ポップスター(字幕版)

ポップスター(字幕版)

  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: Prime Video