オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『悪人伝』

악인전(The Gangster, The Cop, The Devil), 119min

監督:イ・ウォンテ 出演:マ・ドンソク、キム・ムヨル

★★★

概要

ヤクザと刑事と殺人犯。

短評

顔は怖いが根は優しい──こんなイメージがすっかり定着し、いまや韓国映画界No.1の“愛されキャラ”となっている感のあるマ・ドンソク。本作ではヤクザの組長役ということで、「怖いが~」の後が続かない極悪人なのかと思いきや、なんだかんだで“いい人”だった。パッケージの印象は韓国ノワールそのものなのに、どちらかと言えば“明るく楽しい”、マ・ドンソクのアイドル映画である。これには正直拍子抜けしたが、まあ、格好いいからいいや。

あらすじ

ある雨の夜、カジノをシノギとしているヤクザの組長ドンス(マ・ドンソク)が帰宅中に何者かに刺される。対立組織の組長サンドの関与が疑われるものの、ドンスは独自の捜査で真犯人を探し出そうとする。一方、テソク刑事は、付近で続いていた殺人事件の凶器が同じナイフであると見抜いたことから、同一犯による無差別連続殺人であると確信。テソクがドンスに情報提供を求め、ヤクザと刑事の協力体制が築かれるが、互いに相手を出し抜いて犯人を先に捕まえようと虎視眈々なのであった。

感想

ドンスの登場シーン。サンドバッグをボコボコ殴ってトレーニングに励んでいるのかと思いきや、中には掟破りをした人間が入っている。ヒューマンバッグである。ドンスが犯人愛用のナイフを入手すると、それを利用してサンドを殺害。犯人に罪を擦り付けようとする。こんな“悪人”のドンスなのだが、それが「いつものいい人キャラとは違うぜ!」という“わざとらしいアピール”に感じられてしまうほど、根の優しさが隠し切れていない。

ドンスと犯人の接触は、停車中に後ろから車をぶつけられ、「あ、すみません」と犯人が謝罪しに来るというもの。こうして相手を誘き出し、衝突箇所に注意を向けさせておいて刺すのが犯人の手口である。しかし、ドンスは「気にするな。帰りなさい」とありえないまでに寛容な態度を見せる。他にも雨に濡れるJKに傘をあげたりしていて(ちなみこのJKは殺される。やはりヤクザと関わってはいけない)、“真の悪人”を追い詰める心優しき“(ダーク)ヒーロー”という描かれ方が崩れることは最後までなかった。悪人が悪人を追い詰めるという設定や“ヤクザと刑事のタッグ”という要素がありはするものの、基本的には「ナメてた相手がヤバかった」系の話である。

ドンスからテソクへの協力量に対して逆が少ないような気はするものの(強いて挙げるなら逮捕による妨害が入らない点が最大の協力か)、歪な協力体制の下で犯人を追い詰める二人。先に犯人に迫ったのはドンスの方で、彼が犯人と扉越しに緊張の一瞬を迎え、そこから戦いが始まるのかと思いきや……の展開が面白かった。扉の“開け方”である。まさかそんな対峙になるとは思わなかったし、そのまま板を拳でぶち抜いて犯人をボコるとも思わなかった。ドンスが強すぎて笑ってしまうのだが、あの圧倒的な体格はその描写に説得力を持たせており、本作のナイフグサグサな割にはカラッとしたアクションの質の高めていた。なお、肉弾戦では最強を誇るドンスだが、走って追いかけっ子するのは苦しそうだった。

ドンスが始末しようとしていた犯人をテソクが“横取り”するも、裁判は証拠不十分で無罪の様相を呈する(なんて間抜けな刑事なのだろう)。そこで、テソクはドンスに再度協力を依頼し、「法に彼を殺させよう」と頼み込む。これにドンスが応え、法廷で証言するという展開を迎えるため、「やっぱりいい人路線じゃないか」と思ったが、そこからもう一波乱あって笑った。あの笑顔のためだけに本作を観る価値がある。

悪人伝(字幕版)

悪人伝(字幕版)

  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: Prime Video