オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』

Color Out of Space, 110min

監督:リチャード・スタンリー 出演:ニコラス・ケイジジョエリー・リチャードソン

★★★

概要

家の前に変な色の隕石が落ちてくる話。

短評

H・P・ラヴクラフトの『宇宙からの色』の映画化作品。圧倒的な禍々しさだった。三十郎氏はラヴクラフトの小説を読んだことがないのだが、彼が「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と呼ばれる未知の恐怖を描くことくらいは知っている。それを知っていてもいなくても、映画の半分くらいは「なんだこれ……」と呆気にとられる展開が続くわけだが、“心構え”があることでその受け止め方は変わってくる。理解できなくてよいのだ。ただ身を委ねればよいのだ。そこは解説や注釈が不要の、あるいは求めてはいけない世界であり、ニコラス・ケイジの演技が霞んでしまう程の狂気が広がっていた。

あらすじ

テレサジョエリー・リチャードソン)、娘ラヴィニア(マデリン・アーサー)、そして息子のベニーとジャックを伴い、父の残した農場へと引っ越してきたネイサン・ガードナー(ニコラス・ケイジ)。ある夜、不思議な色をした隕石が家の前に墜落し、その日から彼らの周囲で異変が起きはじめる。通信が乱れ、時間の感覚が狂い、ジャックは井戸の中の友達と会話をし、テレサは料理中に無反応で指を切り、犬のサムが消える。空から降り注ぐ“光”は、ガードナー家を、そして世界を悪夢で包み込む。

感想

原作既読者からすれば「この文章をどうやって映像に……」という興味をもっての鑑賞となるのだろうが、三十郎氏からすれば逆に「この映像をどうやって文章で……」である。紫ともピンクとも言い難い光の色(自然にはありえないので異世界感抜群)。その光を浴びて変異し、皮膚のただれた動物たち(アルパカの強調はギャグなのか。原作通りなのか)。ジャックと“合体”したテレサ。それらの異様な光景もさることながら、ネイサンの見せる態度の変化をどうやって文章で表現するのだろうか。その点には大いに興味が湧いたものの、果たして、それらの描写を詳述されたところで三十郎氏の想像力がついていけるのかという疑問が残る(「読みづらい」と評判だし)。

最近の当たり役(『マッド・ダディ』や『マンディ』。三十郎氏的には『オレの獲物はビンラディン』も)が全て狂気系の役な気がするニコラス・ケイジ。本作でも怪演を大いに楽しませてくれた。特に好きだったのは、彼がとても嬉しげに収穫してきたトマトを食べて、「不味い!不味い!」とブチギレながらゴミ箱に投げ捨てるシーン。上述のアルパカの件やテレビのインタビューでの髪型を気にするような“ちょっと抜けた”描写で“抑えて”おいて、そこから派手に本気モードへと突入する。ニコラスの演技は基本的に大げさなのだが、本作では彼以上に世界の方が狂ってしまうため、上手くハマる形になっていた。

ニコラス以上に狂う世界。一応は「徐々に」という順序を辿っているものの、テレサが指を切る時の反応から割とフルスロットルであったように思う(その直前の卵も気持ち悪い)。ただし、“異形”の見せ方の順序は上手く、全貌を見せる前に超クローズアップを多用していたのが特徴的である。その爛れた表面の質感からして「明らかにヤバい」ことだけは容易に分かるが、実際のところ、それがどうなっているのかは分からない。この見せ方は光の影響で変異した世界の見せ方とも共通しており、「わけは分からないがヤバい」という感情を上手く煽っていた。もちろん全貌を現した瞬間の禍々しさも凄い。

「お母さんのガンが治りますように」と一人謎の儀式をしているところを調査員ワードに目撃されてしまう不思議ちゃんなラヴィニア。彼女が持っている『ネクロノミコン』という本が、ラヴクラフト作品に共通して登場する架空の書物なのだとか。彼女が一番最初に登場する人物であるため(ナレーションを含めればワードだが)、観客の“視点”となるのかと思ったが、一連の出来事が起こり始めてから“自傷の儀式”をしてしまうような少女は理解の埒外にあり、この世界には身の置き場などないのであった。一応は“主人公”とも言える彼女の迎える結末こそが、我々の主観とは無関係に存在する異世界を象徴していたように思う。

劇中に登場するマーロン・ブランドが出ている映画は『戦艦バウンティ』。

カラー・アウト・オブ・スペース-遭遇-(字幕版)

カラー・アウト・オブ・スペース-遭遇-(字幕版)

  • 発売日: 2020/10/21
  • メディア: Prime Video
 
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