オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『デッド・ドント・ダイ』

The Dead Don't Die, 104min

監督:ジム・ジャームッシュ 出演:ビル・マーレイアダム・ドライヴァー

★★★

概要

自転軸がズレてゾンビが発生する話。

短評

ジム・ジャームッシュという監督には、どちらかと言えば“オシャレ”なノリでシュールな映画を撮るイメージがあった。その彼がゾンビという定番の素材をどう料理するのかに強い関心があったのだが、こういう形に仕上げてくるとは。そのユルさはジャームッシュらしい気もするし、B級映画のような分かりやす過ぎる悪ノリは彼らしくないような気もする。物語の根底にありそうな文明批判も、それがネタなのかマジなのか分からなくなるくらいには全てを“ハズし”まくっている。なんとも不思議な一作だった。

あらすじ

水圧破砕工事によって地球の自転軸にズレが生じ、田舎町のセンターヴィルにも異変が起こる。時計が狂い、夜は更けず、動物たちは異常行動を起こす。そして、遂に日が暮れると、墓から死体(イギー・ポップ)が蘇り、ダイナーを急襲する。クリフ(ビル・マーレイ)、ロニー(アダム・ドライヴァー)、ミンディ(クロエ・セヴィニー)の三人の警察官が事態の収集にあたるのだが……。

感想

映画が始まり、リンク先の“主題歌”が流れると、ロニーが妙なことを口にする。その曲に聞き覚えがあるというクリフに対し、「だってテーマ曲だから」。ここで一つ「おや?」である。何らかのメタ視点を持った物語であることが察せられ、実際にそのネタが終盤に回収されるのだが、これが想像の遥か斜め上を行っていた。

本作の特徴は、登場人物が“妙に落ち着いている”点にあると言えるだろう。特に最初の事件現場を見て「ゾンビだと思う」と見抜くロニーは、ゾンビの登場にも全く動じる様子が見られない。クリフも割と落ち着いてるので、「これはジャームッシュらしいゾンビ映画のノリかな?」くらいに思って彼らの態度を楽しんでいたのだが、それが全然違うのである。

観客がずっと抱いていた疑問──「どうしてそんなに落ち着いてるのか」──をクリフがロニーに突きつけると、なんと「台本を読んだから」。「俺だってたくさん協力してきたのに!」という(ビル・マーレイの)恨み節も聞かされ、これで何らかの視点の転換があるのかと思いきや、ない。その上、日本被れのスコットランドゼルダティルダ・スウィントン)が突如として現れたUFOに攫われるという超展開まで発生するのに、何事もなかったかのように二人がゾンビと戦い始める。一体何だったんだ……。

そんなどこまで本気なのかよく分からない話なので、「環境の変化を見逃していると大変なことになりますよ」みたいなゾンビの発生方法も、映画のクライマックスで世捨て人ボブ(トム・ウェイツ)が力を込めて語る現代文明批判も、そうしたテーマを込めて作られた一作なのか、ゾンビ映画に社会性を込める行為そのものを皮肉っているのかも判然としないところがあった。劇中に見られるゾンビ映画へのオマージュを踏まえれば前者なのだろうが(『ピンク・フラミンゴ』みたいな死化粧が好きだった)、それが上手く機能しているとは思えないため、後者の不真面目な一作だということにしておいた方が面白い気がしなくもない。

反応に困るところのある一作ではあったが、全体のユルい雰囲気といくつかのネタは面白かった。最初に出現するゾンビがそのままイギー・ポップという時点でひと笑い。彼は生前の習慣に従って「コーヒー、コーヒー」と呟くのだが、同じように生前と同じ行動をするゾンビの内、Wifiを求めてうろつくゾンビの姿が現代人そのままで笑えた。他に、ゾンビに対して唯一“真っ当に”ビビるミンディが彼女の祖母を見つけると、ロニーが「“元”祖母」と強調するような会話も笑える(耐えられなくなったミンディが悪夢を終わらせるべく車外に出た後、残った二人が粛々とドアに鍵を掛けるのも好き)。

その一方、ロニーの(巨体に似合わぬスマートカーの)鍵にスター・デストロイヤーのキーホルダーがついていたりするネタは、メタ視点が特に意味を成していなかっただけに、安っぽい悪ノリに感じられた。スティーヴ・ブシェミ演じる農夫フランクの「MAKE AMERICA WHITE AGAIN」帽も直接的過ぎて、ジャームッシュらしい“センス”が感じられない。

デッド・ドント・ダイ(字幕版)

デッド・ドント・ダイ(字幕版)

  • 発売日: 2020/10/04
  • メディア: Prime Video