オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ウィズアウト・リモース』

Without Remorse, 109min

監督:ステファノ・ソリマ 出演:マイケル・B・ジョーダン、ステファノ・ソリマ

★★★

概要

妻を殺されたネイビーシールズ隊員。

短評

ボーダーライン2』の監督&脚本コンビで送るAmazon Originalのアクションスリラー。トム・クランシー原作なので、本来は“ポリティカル”アクションスリラーと言いたいところなのだが、あえて「ポリティカル」の文言は外したい。原作ではアイルランド系らしい主人公を黒人に変更した“映画外部の政治性”が、逆に映画内部の政治性を殺してしまっており、普通に楽しいだけの脳筋アクション映画になっていた。

あらすじ

シリアで人質となったCIA工作員奪還任務に参加したネイビーシールズのジョン。部隊は人質を奪還し、アメリカへと戻るが、作戦に参加した隊員たちが暗殺されるという事件が発生する。ジョンは襲撃を受けながらも一命を取り留めるが、彼の妻で妊娠中のパムが死亡。昏睡から目覚めたジョンは現場から逃走して生き延びた犯人への復讐を誓うが、その裏には国家的陰謀が潜んでいた。

感想

アメリカ、ロシア、軍、CIA。それぞれの組織やその内部での思惑が複雑に絡み合い……というのが、“陰謀”を巡る物語の“内部における政治性”かと思う。しかし、本作の政治性は別のところにある。シリアでの作戦にはなぜか元ロシア軍の傭兵がいて、ネイビーシールズがこれを殺害。アメリカではロシア人が報復として隊員を暗殺するも、CIAが「両成敗で解決済みということで」と黙殺。これに怒ったジョンが大暴走という展開である。

ジョン曰く、「国家に裏切られた。だから(社会)契約は無効。これからは俺がルールを作る」。国家がその義務を果たさないのなら、個人が正義を遂行するのに方法は問わない。これはBLM運動の考え方と重ねてしまってよいだろう。その是非はともかくとして、ルール無視の復讐劇を是認してしまったことによって、あり得たはずの複雑性を放棄してしまったのは明らかである。真相究明は拷問とブラフによってのみ行われ、そこで得た情報を元にジョンが暴走する。それだけである。こんなシンプルな話ならトム・クランシー原作でシリアスぶる必要はない。ひたすら『ジョン・ウィック』を観ていればよい。

ジョンが「こいつが怪しい」と思えば、ロシアのお偉いさんだろうが、CIA局員だろうが、平気で脅して情報を聞き出す。この行動は上述の外部的理由もあって肯定されるため、疑惑(と銃)を向けられたCIA局員リッターが、ロシアでの行動後に「死んだことにしてあげる」と都合よく協力してくれる。ここから真相に辿り着くまでには何らかのワンクッションが必要だと思うのだが、その過程を完全に省略し、“ジョンが怪しいと睨んだ奴が犯人”という流れが本作の脚本の拙さを象徴していたように思う。せっかく現代的視座を持ち込んでみたのに、「国がまとまるには外敵が必要なんだよ……」という何番煎じか分からないオチで雑に片付けられてガッカリした。

ストーリーは“並以下”だと思うが、アクションシーンは迫力と緊迫感の両方があって楽しかった。ただし、暴走復讐野郎のくせに「チームには俺が必要」「俺は替えがきかない」とか偉そうなことを言ってチームに便乗したがるジョンのことは好きになれず、その格好いい顔と筋肉とは裏腹に、“肺活量に自信がある脳筋”という印象ばかりが残った。

同じくAmazon Originalのドラマ版『ジャック・ライアン』が配信されている。同作との直接の繋がりがあるのかは不明だが、原作的には同シリーズのスピンオフという扱いらしい。EDクレジットのおまけ映像で、ジャックが“レインボー”という多国籍テロ対策チームを立ち上げる場面が流れるため、もしかする今後何らかのコラボが見られることもあるのかもしれない。もっとも、ドラマ版は未見だし、本作もそこまでなので、個人的にはあまり期待していない。ちなみに、ジョンが「俺主導でチームを作る」と言い出すのもやたらと偉そうだし(成果を上げたとは言え、激情型でリーダーには向かない)、一介の局員に過ぎなかった中堅のリッターが事件から1年で長官に登り詰めているのも不自然である。

ウィズアウト・リモース

ウィズアウト・リモース

  • 発売日: 2021/04/30
  • メディア: Prime Video
 
容赦なく〈上〉 (新潮文庫)

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