オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『恐怖のまわり道』

Detour, 67min

監督:エドガー・G・ウルマー 出演:トム・ニール、アン・サヴェージ

★★★★

概要

ヒッチハイクでニューヨークからハリウッドに行こうとする話。

短評

エドガー・G・ウルマー監督作品。三十郎氏がこれまで観た二作品(『宇宙のデッドライン』『驚異の透明人間』)がいずれも割とポンコツなB級SF映画であったため、“そっち系”が専門の監督なのかと思っていたが、代表作とされる本作は意外や意外に非常に洗練されたスリラー映画である。これには驚かされた。ヒッチハイクで恋人に会いに行こうとした主人公が不運にも“堕ちていく”様を、短い時間の中でものの見事に描き切っていた。わずか六日間で撮影したとのことであり、他作品と同じく低予算映画なのは間違いないが、そのハンディキャップをまるで感じさせなかった。

あらすじ

とあるダイナーで一人の男がやさぐれている。ジュークボックスから流れる音楽に過剰反応する男が、自身が苦境に陥った経緯を回想する。男の名前はアル。ニューヨークのクラブでピアノを弾いており、歌手のスー(クラウディア・ドレイク)と恋人の関係だった。しかし、成功を夢見たスーがハリウッドへと旅立ち、彼女を諦めきれないアルもまたハリウッドを目指すことに決める。金のない彼にはヒッチハイク以外に交通手段がなかったが、ハスケルという男がカリフォルニアまで同乗させてくれるという幸運に恵まれる。だが、これが悪夢の始まりだった。

感想

ハスケルという男は何も悪くない。食事を奢ってくれるし、ウェイトレスにチップも弾む。彼はちょっと眠りが深すぎるだけである。夜間の運転はアルが務めるのだが、途中で雨に見舞われる。どれだけ雨に打たれてもハスケルが起きないので、アルが一人でオープンカーの幌を閉じていると、ドアが開いて地面の石で頭を打ったハスケルが死んでしまう。かなり無理矢理かつ間抜けな死に様である。

「これは困ったぞ」と思いながらも、ハスケルに成りすまし、車を頂戴して再びハリウッドを目指すことに決めるアルだったが、ガソリンスタンドでヒッチハイク待ちしていたベラ(アン・サヴェージ)という女を拾ったのが運の尽き。実は彼女はハスケルを知っていたのである。「相手が喋り出すまでは黙っておこう」「こっちから腹減ったと飯をねだるような真似は慎もう」と陰気なヒッチハイカー的生存戦略を見せてきたアルが、「乗ってく?」と自らベラを誘うのは一見すると不自然なのだが、この“一つ前”の描写が素晴らしい説得力を与えている。アルがハスケルの荷物を探ると、「こいつは詐欺師っぽいな」と後悔と不安の気持ちが少し晴れ、調子に乗っていたところでベラに出会うのである。

ベラから「あんたハスケルじゃないでしょ」と脅され、彼女の言いなりになるアル。すったもんだの末に「くそう、もうお前の言いなりになんてならないぞ」と彼が決心すると、ベラは「じゃあ警察に通報してやる」と言い、電話を持ってベッドルームに籠もってしまう。アルが電話線を引き抜こうと必死で引っ張ると、ドアの向こうでは電話線がベラの首を締めていたというオチである。電話線が自分の首に巻き付いた状態で電話するという状況については理解が及ばないが、“無実の罪”に悩んだ末に本当の殺人を犯してしまうという皮肉な物語だった。ヒッチハイクに苦労していたアルが、最後は手を挙げずとも車に乗せてもらえる(=強制)というラストシーンも皮肉が効いている。

本作のファム・ファタールであるヴェラ。アルが初めて彼女を見た時に“いかに美しいのか”を絶賛するシーンがあるのだが、ただ美しくて惹かれてしまうのではなく、「愛憎」の「憎」の強い繊細微妙な関係が印象的である。金に汚く、アルを脅す彼女は間違いなく悪女なのだが、どうやら肺を悪くしているらしく、その“破れかぶれ感”がキャラクターと行動に強い説得力を付与している。

州境の検問所で「野菜や果物ある?家畜は?」「30日以上の滞在で雇用される予定ならナンバー取り直してね」と国境のような質問を受けていた。他の映画でこのようなシーンを見た記憶はないのだが、当時は州間の移動に対する制限が強かったのだろうか。

恐怖のまわり道

恐怖のまわり道

  • 発売日: 2021/04/17
  • メディア: Prime Video