オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『舞台恐怖症』

Stage Fright, min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ジェーン・ワイマンマレーネ・ディートリッヒ

★★★

概要

想い人の無実を証明しようと奔走する話。

短評

ミステリー要素が強めのヒッチコック監督作品。スリルについてはそこまででもなかった印象だが、ミスリードが非常に上手く機能しており、結末に驚きがあった。もっとも、そのミスリードにスリルを利用しているところがあるため、そこは流石ヒッチコックなのだろう。マレーネ・ディートリッヒも“悪女ぶり”も圧巻だった。

あらすじ

女優志望のイブ(ジェーン・ワイマン)の元にジョナサンが助けを求めて駆け込んでくる。曰く、恋人で女優のシャーロット(マレーネ・ディートリッヒ)が夫を殺してしまい、現場に着替えを取りに行ったジョナサンがメイドのネリーに目撃され、犯人として警察に追われているのだと。思いを寄せるジョナサンの無実を信じるイブは、彼を父の家で匿った上で、シャーロットにメイドとして近づこうとする。

感想

映画はイブとジョナサンが車で逃走するシーンからスタートする。そこから回想編としてジョナサンの話が始まるのだが、この“鬼気迫る状況”がアンカーとして機能し、単純な時系列順よりも観客が物語に対して“前のめり”になりやすいよう状況設定されている。殺人事件は既に発生済みであるため、その先には人の生死を分ける危機は発生しづらい。これではヒッチコック作品としてはスリル不足に陥りそうだが、“逃走劇”としての性格を事前にアンカリングしておくことで純粋なミステリーとの差別化が図られている。

ネリーの従姉妹に見せかける変装作戦は失敗したものの(この謎コントによる緩急もヒッチコックらしい)、メイドとしてシャーロット邸に侵入を果たしたイブ。そこから色々なことが明らかとなり、最後に驚愕の真実が待っているのだが、事実関係以上にミスリードになっているのがシャーロットの人物像である。夫が死んだのに余裕綽々で舞台に上がり、ジョナサンとは別の本命愛人とイチャついている。「なるほどこいつなら夫くらい殺しそうだ」と誰もが思うに違いない。この悪女をマレーネ・ディートリッヒが貫禄たっぷりに演じるものだから、その説得力は尋常でない。当時の流行がどうだったのかは知らないが、シャーロットの眉が極端に細く、どちらかと言えば太眉で純朴に見えるイブとの対比を生んでいる。

パブで気分が悪いふりをして“ナンパ待ち”し、刑事と接触するイブ。全く同じことをしたのに「結構です」ときっぱり断られるメガネのデブが気の毒だった。このデブはキモいし、しつこかったが、その後、「ジョナサンよりもスミスが好き!」となっていることもあり、目的を知らなければ“イケメンに滅法弱い女”みたいである。ヒッチコックにロマンスを描くつもりが毛頭ないのが原因だろうが、それも“らしさ”か。

想い人のために頑張る娘のため獅子奮迅の活躍を見せるイブの父。彼の推理力が明らかにただ者ではなかった。彼はジョナサンの話を聞くなり「シャーロットの服に血がついてたのは故意」と見抜く。この服を利用してブラフをかけるシーンにはスリルがあり、また、あまり「舞台恐怖症」要素のない物語にそれらしいシーンを生み出している(「Stage Fright」は「アガリ症」という意味らしいが)。イブの父が人形をゲットする場面がコミカルで良かった。「絶対に当てる」と言っていた達人は何者なのか。

舞台恐怖症(字幕版)

舞台恐怖症(字幕版)

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