オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『プレッシャー・ポイント』

Catacombe, 93min

監督:ヴィクトル・D・ポンテン 出演:ウィレム・デ・ブライン、ケヴィン・ヤンセン

★★★

概要

借金漬けのサッカー選手の話。

短評

ベルギー、オランダの合作映画。サッカーを題材としてはいるものの、熱いスポーツ映画などではなく、ダメ男がダメな方へダメな方へと転がり落ちていく物語である。言ってしまえば自業自得でしかないのだが、いくつかの選択肢が示された上で、スターでないとは言えプロのサッカー選手である主人公が、そのサッカーを裏切らざるを得ないという状況に陥る過程には説得力があったように思う。

あらすじ

プロのサッカー選手としてプレイするジェイ。彼にはギャンブルという悪癖があり、多額の借金を背負ってしまう。そんな折、彼に中国のクラブからのオファーが舞い込む。契約金の額は魅力的であり、代理人も契約を勧めるが、ジェイはこれを拒否。しかし、借金回収の圧力が高まる一方でその見込みはなく、遂には妻(リリアーナ・デ・フリース)や娘の身にまで危険が及ぶことを危惧したジェイは、とある決断を下すことになる。

感想

その決断とは、“八百長”である。「次の日曜の試合は負けろよ」と要求され、それを呑むしかなくなってしまう。最終的には車上生活に追い込まれるまでに金がなくなってしまうジェイだが、最初にオファーが来た段階ではプロ選手としてのプライドを覗かせて却下している。「年金リーグ暮らしも悪くないですよ」的なことを言われ、「俺はまだまだやれるんだが」とカチン。そのプライドが現実によって少しずつ削り剥がされ、最後には八百長に手を出さざるを得なくなってしまうという話である。

三十郎氏もよくサッカーの試合を見る。その世界の頂点の一つであるイングランド・プレミアリーグなどに慣れてしまうと、地元Jクラブでプレイする選手には「なんて下手クソなんだ。それでもプロか」と文句の一つくらいは言いたくなる。しかし、多くの経験者が語る通り、下部リーグでプレイする彼らであっても、無数に存在する“そこまで辿り着かなかった選手”からすれば“神”のレベルであり、人生の全てを競技に懸けていることは言うまでもない。

ジェイもまたそのような存在である。「プロサッカー選手」という言葉のイメージよりは地味で目立たずともサッカーを愛しており、そこには当然に自負もある。それ故に(また、幼い娘と離れたくないという事情もあるだろう)中国行きの話を断るのだが、そうなると金を用意するには八百長しかなくなってしまう。それでも嫌なジェイが「自分がレッドカードを受ける」と妻に賭けさせ(これが監視カメラでバレて彼女に身にも危険が及ぶ)、「それは本人的にセーフなラインなのか」という虚しい抵抗を見せるという心理的なせめぎ合いが面白かった。なお、彼はレッドカードをもらうことすらできずに交替させられて荒れている。交替当然の情けないプレイを見せたのに荒れる選手がよくいるが、実は彼と似たような事情を抱えているのかもしれない。

負けなくてはならない八百長試合に挑むジェイ。スタメン落ちしそうだったので後輩を脅して“食中毒”にし、一人では負けられないので仲の良いGKにも協力を依頼する(断られるが彼も息子が危険に晒されて協力せざるを得なくなる)。試合は“順調”に推移し、1点ビハインドで後半ATに突入したところで訪れる絶好のFKの機会。ジェイの選手としての武器はFKであり、「それでも最後には……」というスポーツ映画的展開なのだが、“宇宙開発”して試合終了(言い回しが古いか)。借金のせいで妻子や仲間の信頼を失い、最後に残された選手としてのプライドまでもが完全に消え失せた悲しい瞬間であった。

無事に八百長を終えて借金を返したジェイは、「どうせクビになるし」と翻意して中国人エージェントに逆オファーする。入団記者会見で「入団できて光栄です。私の経験を伝え、私も学びたいです」と(ありがちで)殊勝なコメントをする彼の姿には日本でプレイする外国人選手の姿を重ねずにはいられず、彼らもほとんどの場合は選手としてのキャリアの終わりを意味するアジアでのプレイなんて本当は望んでいないのだろうなと思った(三十郎氏の知る限りではフッキが例外か。三十郎氏は彼のプレイを生で見たことがある)。ここで冒頭とラストの景色が重なるので、既にプライド失ったジェイがその後も八百長に加担することが予想される悲しい結末となっている。

プレッシャー・ポイント

プレッシャー・ポイント

  • 発売日: 2021/03/25
  • メディア: Prime Video