オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『バーバラと心の巨人』

I Kill Giangt, 106min

監督:アンダース・ウォルター 出演:マディソン・ウルフ、イモージェン・プーツ

★★★

概要

ウサ耳&メガネの不思議ちゃんが巨人と戦う話。

短評

邦題が盛大にネタバレしているが、妄想の巨人と戦う物語である。巨人の正体は何なのか、そして、どうして巨人が生まれたのかが解き明かされる結末に意外性はないものの、主人公の不思議ちゃんが可愛くて、「よく頑張ったね」と褒めてあげたい気分になった。『怪物はささやく』と似たところのあるダークファンタジー的ドラマだと思うのだが、欧米の人が“巨人”に何らかの意味を託したがるのは、どのような理由があるのだろう。

あらすじ

ウサ耳とメガネがトレードマークの不思議少女バーバラ(マディソン・ウルフ)。周囲の誰からも変人扱いされている彼女には秘密の仕事があった。それは“巨人殺し”。自分の住む街に巨人がやって来ると信じる彼女は、日々その襲撃に備えて罠の準備や予兆の観察に余念がなく、対巨人専用武器“コヴレスキー”と共に巨人を迎え撃とうとしているのだった。

感想

バーバラには巨人殺しという使命がある。通常「不思議ちゃん」と呼ばれるような少女は“ふわふわ~っ”としていそうなものだが、彼女は巨人と戦う“戦士”なので相当に我が強い。イジメっ子にテーブル使用料を要求されれば「釣りは要らない」と手にツバを吐き(相手が男子ならご褒美だろう)、カウンセラーのモル先生(ゾーイ・サルダナ)には「相手にしてる暇はない」。体育教師に対しては「教師って無意味な仕事だと思いません?」と言い放つ強気ぶりである。

したがって、バーバラは可愛い見た目とは裏腹に結構ウザい少女なのである。彼女の面倒を見ている姉カレン(イモージェン・プーツ)が仕事との両立が上手くいかずに「もう限界……」と漏らす姿は気の毒でならず、「いい加減にしろよ、このクソガキ」という気持ちが湧いてきた。モル先生の赤ん坊を見るなり「その子は死ぬ」と言い出すし、空気が読めないとかそういうレベルではない。リーズから引っ越してきてバーバラの唯一の友人となるソフィア(シドニー・ウェイド)も、「巨人が云々」「私は毎日街を救ってる」と言い出す変人に対してよくドン引きせずに付き合ってくれたものだと思う。

姉が面倒を見ているという事実と「みんな死ぬ」というバーバラの言葉。この二つの要素を併せて考えれば、彼女の恐怖の象徴たる巨人の正体は自明だろう。彼女の母は重い病気で死に瀕しており、その事実を受け入れられないバーバラが「巨人(=死)を倒せば母は助かる」という妄想ワールドに逃げ込んだ(=防衛機制)のである。これ自体はありがちな話だと思うのだが、少女にとって親の死ほど受け入れがたい事態というのは存在しないだろう。ウサ耳ファッションと妄想巨人に傾倒するにはバーバラは少々年を取り過ぎているように思うが、それがエキセントリックな方法であれ、親の死を受け入れ、乗り越える過程としては一定の説得力を持っているし、映像面での魅力と両立させる設定だったと思う。大人の観客にとっては一応隠してきた割には驚きのない結末だが、最初から“そういう物語”なのだと認識して観るべき話だと思う。

巨人を倒したところで母親が死ぬ事実は変わらないことを受け入れたバーバラ。この凡庸に思える結末が感動を誘うのは、ただ彼女が成長したからというだけでなく、妄想世界の外で彼女に振り回されてきた人々が報われることを同時に意味するからなのだろう。感情移入の度合いで言えばバーバラよりもカレンの方が強いため、その意味でも“めでたしめでたし”なのである。

対巨人専用ハンマー“コヴレスキー”。この名前は100年前にフィラデルフィア・フィリーズに在籍し、「ジャイアンツ・キラー」と呼ばれた野球選手ハリー・コヴレスキーに由来している。バーバラにはこの選手に関して母親との間に大切な想い出があるのだが、巨人が生まれた時に真っ先に思いついたのがこの名だったのか。それとも、“巨人殺し”ありきで巨人が生まれたのか。いずれにせよ、どうして100年前の野球選手を母親が好きだったのかは気になる。

巨人のビジュアルはそこそこという印象だったが、バーバラが茸の胞子を採取して“餌”を作るシーンだったり、トイレのゴキブリや蛆の湧いた子鹿の死体とダークな描写が良かった。妄想世界の話だとは分かっていても、薄暗い森の雰囲気も相まって、いい感じにダークファンタジーらしくなっている。

バーバラと心の巨人(字幕版)

バーバラと心の巨人(字幕版)

  • 発売日: 2019/11/02
  • メディア: Prime Video
 
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