オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『フッド:ザ・ビギニング』

Robin Hood, 116min

監督:オットー・バサースト 出演:タロン・エジャトンジェイミー・フォックス

★★

概要

義賊ロビン・フッドの誕生譚。

短評

新進気鋭のスター俳優!テンポの良い物語!スタイリッシュなアクション!高額の予算!シリーズ化する気満々の製作陣!その結果がこれなのか……。そのスター俳優は全く領主に見えないその辺のやんちゃな若者に過ぎず、テンポの良さはまるでダイジェスト集のよう。スタイリッシュなアクションは弓を高速連射するだけという滑稽さで、高額予算の割には中世っぽさに欠けるチープな世界観。「続編もあるよ!」という結末にした製作陣が興行収入(製作費1億ドルに対して世界興収8500万ドル)という冷酷な現実を突きつけられた時、彼らはどんな気分だったのだろうか。

あらすじ

何一つ不自由のない暮らしをしていたノッティンガム荘園領主ロビン・ロクスリー。しかし、彼は第三回十字軍遠征に徴兵され、四年ぶりに故郷に戻ってきた時には戦死扱いとなっていた。財産は戦争税として没収済みで、恋人マリアン(イヴ・ヒューソン)は活動家ウィルに寝取られている。そのショックでロビンがゲロを吐いていると、一人の男に声を掛けられる。その男の名はヤキヤ・イブン・ウマールといい、ロビンが戦争中に命を救った捕虜だった。曰く、「権力者に復讐するために泥棒やろうぜ!」

感想

色々と不満だらけの一作なのだが、根本的にダメだったのは世界観の構築に失敗している点だと思う。出演者たちの衣装は妙にカラフルかつテカテカとしていて、中世の小汚い世界に全く見えない。領主連中が華美な服装を身につけることくらいはあろうが、平民寄りの活動家にストライプの柄シャツなんて着せるなよ。十字軍遠征のシーンなんて現代の軍服みたいである。モブキャラたちが黒い服を着ている一方で、名前付きキャラたちは目立つようにカラフルな服を着ており、これもなんだか安っぽい。ところどころで「こんな素材あったの?」という違和感が噴出した。服装以外にも理由はあると思うが、舞台であるはずの中世イギリスの雰囲気が全く出ておらず、異世界ファンタジーなYA小説の映画化作品を観せられているかのようだった。

「テンポのよいストーリー」と言えば聞こえはよいものの、その実態は、主人公に弓アクションを演じさせるためのとってつけたような物語である。復讐の動機、義賊としての覚醒、州長官と枢機卿の陰謀、マリアンとのロマンス。そのいずれも全く深みがなく、アクションだけでは間が持たないので一応のイベントを発生させているだけのような印象だった。「ジョンがいないとダメなんだ」からの、マリアンの「あなたならできるわ」という言葉だけで復活する流れは最高に酷かったと思う。

となると、最大にして唯一の見所であるはずのアクションはどうなのか。ところが、これも良かったとは言い難い。盗賊であるロビン・フッドは一人で複数の衛兵を相手にしなければならないのだが、弓という武器は矢を番える動作の都合上、こういう戦いに適していない。そこで彼は高速連射スキルを磨くのだが、どんなに激しく動きながら矢を発射してみようとも、「この場合は弓以外の武器を使った方がよいのでは……?」という疑問が頭を捉えて離さない。冒頭の十字軍のシーンでは、弓兵だけで組織された部隊が屋内戦を繰り広げており、その間抜けさがアンカーとなったものと考えられる。ストーリー的にも“どうしても弓でなければいけない”という要素はなく、「ロビン・フッドを現代的に格好よくしてやるぜ!」という狙いだけがひたすら空回りしていた。

マリアンに正体がバレてしまったロビンは、民衆に自分の正体を告げて共に戦うことを選ぶ。『ダークナイト』から約10年。SNS社会の内面化による価値観の変容があったのだろうか。ヒーローは陰ながら人々のために戦って自分の意思を貫く自己満野郎ではなく、人気を集めたくて仕方がない承認欲求爆発野郎へと変化したらしい。同作の大ヒットと本作の大コケを比較すれば価値観が変わっていないように思えるかもしれないが、それは作品の出来に依拠する部分が大きく、マーケティングの結果としてこの脚本が書かれた──この展開がウケると予測された根拠となる価値観の存在は否定できまい。

ロビンを導くジョンことヤキヤなんとか。ロビンの行動はほとんど彼の口車に乗せられたものであり、葛藤する隙を与えない。物語をテンポアップさせた立役者であり、ダイジェスト集化した戦犯である。彼とロビンの出会いは、ヤキヤの息子サリームが処刑されそうになっていたところをロビンが止めようとしたものである。(少なくとも活動開始当初は)身分を隠して民衆のために戦う義賊というキャラクターから一切の複雑さを排除する、序盤で陳腐なヒーロー像を確定させてしまう不味い場面だった。なお、ロビンは捕虜の命を気に掛ける割には一人の戦友を救おうとして味方を壊滅させており、正義漢というよりも、その場の気分だけで動く直情的阿呆にしか見えなかった。

フッド:ザ・ビギニング(字幕版)

フッド:ザ・ビギニング(字幕版)

  • 発売日: 2020/02/01
  • メディア: Prime Video