オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『X 謀略都市』

X., 114min

監督:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ 出演:モーニカ・バルシャイゾルターン・シュミエド

★★★

概要

ブダペスト連続不審死事件。

短評

パッケージやタイトルはB級ポリスアクション映画のようだが、北欧ミステリー的な重厚な雰囲気を持つ一作だった。主人公の女刑事がメンタルをやられているので捜査がなかなか進まないものの、実際にはシャーロック・ホームズばりに優秀だという謎のギャップである。この“能力”は陳腐に感じられなくもないが、壮大過ぎるオチもハンガリーが旧共産圏であることを考慮すれば納得できるものであり、少々イライラさせられてきたメンタル不調の原因ともちゃんと繋がっていて、上手く話がまとまったと思う。

あらすじ

捜査官として優秀な能力を持ちながら、あるトラウマから事件現場に出られずに冷遇されているブダペストの警察エーヴァ(モーニカ・バルシャイ)。彼女は自殺や事故と断定された相次ぐ不審死の原因に疑問を抱き、地方から赴任してきた同僚ペーテルと共に捜査を開始する。次の事件現場に残された手掛かりから一度は犯人が逮捕されるものの、その裏には国家規模の陰謀が潜んでいた。

感想

エーヴァのトラウマは夫の自殺である。妊娠中の彼女が同僚刑事である夫のオフィスを訪ねると、そこには頭を撃ち抜いた自殺体が(それを見て破水する)。それ以来、殺人現場に出るとパニックを起こすようになってしまい、“写真を見るだけ”の捜査を続けている。それ故に「現場も見てないくせに難癖をつけるな」なんて言われてしまうのだが、彼女は本当に写真を見るだけで捜査できてしまう能力の持ち主なのである。そんな彼女がペーテルに無理やり現場に駆り出され、自身のトラウマと向き合いつつ、夫の死の真相を知るという物語である。

銃を握っただけで朦朧としてしまう程のメンタル不調故に犯人を逃しそうになったりするエーヴァだが、その抜群の洞察力については重苦しい空気感にそぐわないものだった。雰囲気はシリアスだが、ジャンルとしては“名探偵もの”に近い。彼女の能力は物語の進行に欠かせないので仕方がないとして、留置所内で“自殺”した犯人については、彼を眠らせるために使用したガスが検死で見つかるとしか思えなくて、主人公以外のポンコツぶりは気になった。

最初に捕まったのは、ウェブサイトでイイネ!が31個しかつかず、現場で自己主張してしまった政治犯。しかし、その裏には黒幕が控えており、なんと次期首相候補が旧共産時代に所属していた暗殺者集団が関与していたと結末である。暗殺者が首相に上り詰めるなんてことがありえるのかと驚いてしまうが、プーチンKGBの出身であることを考えれば、旧共産圏における権力構造としては十分に現実味を持ったものということになるのか。本作では少し傾いた逆さの空撮映像が多用されており、非常に不気味な雰囲気を演出しているのだが、民主化と資本主義化した後も“主権者”が逆転したままであることを象徴する演出だったかと思う。

連続不審死とエーヴァの夫の死には繋がりがあり、それが旧共産時代から脈々と受け継がれている歪んだ権力構造によるものというのが本作の大筋である。ミステリーの部分は名探偵頼りなところがあるものの、社会性とパーソナルな物語を上手く繋げられていて、見応えのあるドラマとサスペンスを成立させていた。

出産の直前に夫が死んでしまい、エーヴァが夫のことを何も話せなくなってしまったがために不仲となっている娘のカティ。彼女は母親が毎日同じ料理ばかりを作ることに文句を言うのだが、エーヴァが「今日はトースト・サンドイッチじゃないわよ」「焼いてない」と言うシーンは笑った。ツッコみ待ちなのか。エーヴァの様子から夫の自殺は割と最近のことなのかと思いきや、カティは14才である。14年もあの状態でよく警察の仕事を続けてこられたものである。これも旧共産文化の影響か。

ハンガリー映画というのは珍しい気がするが、最近『リザとキツネと恋する死者たち』を観たばかりだった。ちなみに、本作の監督と主演は同作と同じコンビである。作風が大きく違っていて驚かされる。同作についても、もっと社会的な背景に注目してみる必要があるのかもしれない。

X 謀略都市(字幕版)

X 謀略都市(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: Prime Video